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しかしシャトルの引退延期は、そう簡単な問題ではない。

まずシャトルは金食い虫である。NASAはシャトル運行1回当たりの経費を公開していないが、2008年10月からの2009会計年度の予算で、29億8170万ドル(約3190億円)をシャトル運航に投ずる計画となっている。2009会計年度中のシャトル打ち上げは5回なので、シャトルの1回の運行には5億9700万ドル(約638億円)かかっている計算となる。2003年2月のシャトル「コロンビア」空中分解事故の以前は、この額はおおよそ5億ドル程度で、2005年の飛行再開に当たっては10億ドルを超えていた。シャトルの運航がスムーズに行くようになり、1回当たりの運行経費は下がっているが、オービターの老朽化などにより、コロンビア事故以前の水準には戻らないことが分かる。

NASAはシャトル引退以降、生じた予算的余裕をオリオン宇宙船などの有人月探査向け機材開発に振り向ける予定だが、シャトル引退が延期となると資金的余裕は失われ、オリオンなどの開発も遅延することになる。シャトル引退を遅らせることで、次世代宇宙船の開発がますます遅れてしまうわけだ。

また、それだけの資金を投下したとしても、シャトルを安全に運行し続けることができるかどうかは不透明だ。現存するオービター「ディスカバリー」(1984年初飛行)、「アトランティス」(1985年初飛行)、「エンデバー」(1992年初飛行)を、仮に2015年まで運行するとなると機齢はそれぞれ、31年、30年、23年となる。最後に就航したエンデバーでさえ、「コロンビア」(1981年初打ち上げ、2003年墜落で22年間使用)の実績を超えてしまうわけだ。

また、前述した通り、たとえシャトルの運航を継続したとしても、ソユーズ宇宙船なしではISSの運用はできない。ソユーズは緊急脱出船として、ISS運用に不可欠だからだ。

また、2004年にシャトルを2010年に引退させる方針が示されたことにより、シャトルを支えるメーカーの末端では引退に向けた準備がすでに相当なところまで進んでしまっている。シャトルは様々な専用部品を使用しているが、そのうちの消耗品は、2010年引退を前提に計画的に在庫を積み上げて生産を終了するフェーズに入っている。生産終了後、メーカーは利益確保のため、速やかに製造ラインを閉鎖するのが普通であり、ライン再開には、より一層のコストを掛ける必要がある。

現状は、アメリカにとっては、進むも引くも明るい見通しが立たない、非常に難しいものとなっているわけだ。

■おわび


本記事の6ページ目において、2009会計年度のNASA予算におけるスペースシャトル運航経費を、「57億8800万ドル」と書きましたが、正しくは「29億8170万ドル」でした。57億8800万ドルはISS運用を含む有人宇宙活動全体の経費です。数字を誤認した筆者のミスです。訂正すると共にお詫びいたします。

記事の該当部分一段落分を差し替えました。記事としての主張には変化はありません。

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

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