このページの本文へ
ここから本文です

一方防衛省から見ると、年間220億円からの負担で、自らの意志で自在に運用できる打ち上げロケットを入手することができる。決して小さな額ではないが、年間約5兆円の防衛予算からすれば相対的に小さな額だ。実用的なロケットをゼロから開発することを考えれば格安である。また防衛省は、アメリカとの協力関係がもっとも緊密な官庁であり、米バンデンバーグ基地からの打ち上げにも違和感を持たないだろう。

GX開発に今後かかるコストの見積もり。もっとも安いのはアトラスVの部品を極力流用し、米バンデンバーグ基地から打ち上げた場合。それでも800億円台後半はかかる。

自主開発にこだわって種子島から打ち上げるケースDでは、約1500億円が必要になる。打ち上げ能力が種子島とバンデンバーグで大きく異なるのは、種子島が地形的・地勢的に打ち上げ時の安全に配慮が必要で、打ち上げ能力を最大にするトラジェクトリ(打ち上げ時にロケットがたどる軌道)を採用できないため。また、種子島からの打ち上げ能力に幅があるのは、夏と冬とで上空の風向が異なり、トラジェクトリを変える必要があるからだ。

実証試験機は1機150〜195億円と極めて高額になるが、これは試験機として計測や安全のための装置を備えるため。IHIは、この価格は必要となる諸経費をすべて積み上げた「最大の見積もり」であり、実用機はこれよりも大分安くなるとしている(宇宙開発委員会推進部会・GXロケット評価小委員会、平成20年5月15日提出資料「今後のGXロケット開発に係わる検討状況」より)。(拡大

なによりも今後の大型化までを考えると、GXは有望である。GXの打ち上げ能力が機体規模の割に低いのは、第2段LNGエンジンの比推力が小さいからだ。第1段に使うアトラスV第1段は、技術的なスジの良い優れたロケットであり、第2段を高比推力の液体酸素・液体水素エンジンに換装することによって、簡単に打ち上げ能力をH-IIA並みに引き上げることができる。上段強化による大型化まで考えれば、GXの可能性は大きく広がる。これは将来的に、防衛省が静止軌道に大型の早期警戒衛星などを打ち上げる時に役立つだろう。

もちろん、いずれ日本の領土内に射点を建設することも可能である。その場合は最初から機密やセキュリティを考慮した立地や設計とすることが可能なので、種子島や内之浦のような問題も起こらない。例えば自衛隊しか駐留していないような離島に射点を建設すればセキュリティ面は完璧だろう。

ここまで良い話ばかりを書いてきた。だが、問題がないわけではない。GXを安全保障用途専用とするには、大きな問題点が存在する。

(次回へつづく)

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

(全 5 ページ中 5 ページ目を表示)

あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください

記事検索 オプション

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る