成功するためではなく、予算を取るための設計
次にGXの設計を歪めたのは科学技術庁(現文部科学省)だった。
科学技術庁の予算に対する判断基準には一つの特徴があった。「科学技術庁は技術開発のための官庁だ。従って科技庁予算で開発するアイテムは、世界的に見ても先進的なものでなくてはならない」というものだ。
NASDAがH-Iのために液体水素燃料を使用するLE-5エンジンを開発した時は、世界的に見ても液体水素燃料を実用化しているのはアメリカだけだった。しかも液体水素燃料は比推力が高いという特徴があった。だから液体水素を使うというだけで、十分予算請求を行う根拠となった。
しかし、GXの第2段は炭化水素系のLNGを燃料に使用することになっていた。炭化水素系の燃料は、宇宙開発の黎明期から使用されており、しかも比推力は液体水素よりも低い。このため科技庁は、「そのようなものを科技庁で開発する理由が立たない」としてNASDAと対立した。
実際には、第1回に書いたようにLNGには、これまで使用されてきた炭化水素系燃料と異なる特徴があり、その実用化も液体水素に比べて容易というわけではなかった。しかし、そのことを科技庁は理解していなかった。
その結果、GXの第2段は、LE-5のような「失敗しないために可能な限り保守的な設計を採用する」のではなく、「予算を取るために可能な限り先進的で、なおかつ一見簡単に思える設計」へと傾斜していった。
例えば、新規開発のLNGロケットエンジンは、高圧ガスで推進剤タンクを加圧して、燃料のLNGと酸化剤の液体酸素をエンジン燃焼室に押し込む設計となった。推進剤に圧力をかけるターボポンプがないので、一見簡単に思える形式だ。
しかしこの形式の場合、燃焼室には液体のままのLNGと液体酸素が入る。
燃焼室に推進剤を吹き込む部分を噴射器という。液体のままの推進剤を混合するには、液滴の両者が衝突して混合する「衝突式」という方式を使う。
実はこの衝突式噴射器は設計に、膨大なノウハウが必要だった。衝突した液滴を的確に混合するには、衝突の角度や噴射する液滴の直径や速度を細かく制御しなくてはならない。これらは最適値を理論的に算出することが事実上不可能である。膨大な実験の積み重ねのみが、衝突型噴射器の開発を可能にするのだ。
日本はかつて1970年代に開発したLE-3エンジン(N-Iロケットに使用)で、衝突型噴射器を採用した。LE-3は米ロケットダイン社からノウハウの提供を受けて開発された。それでも噴射器はエンジン運転中に溶けてしまう事故が続発し、7度もの設計変更を余儀なくされた。
もしも、1990年代に基礎的な実験を徹底的に繰り返していれば、衝突型噴射器に関するノウハウを事前に蓄積することは可能だったろう。しかし実際には、そのような投資はなされなかった。
NASDAは、ノウハウの蓄積なしに、ノウハウなくしては開発が困難なエンジン形式を選定したのだった。しかもその設計を文部科学省に対しては「簡単な形式です」と、開発が容易であるかのように説明したのである。
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