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デジタル放送普及推進協会の速報値によると今年10月末の段階で、地上波デジタル受信機は約2637万台、BSデジタル放送受信機は約3036万件となっている。日本の総世帯数が4753万世帯であることを考えると、まだ1700万世帯ほどがそもそもハイビジョン放送を受信できない状況にあることがわかる。

しかも、この数字は受信機の数字であって、ハイビジョンクオリティを映すテレビ受像器の数字ではない。今年5月時点での総務省発表(pdfファイル)によると、はっきり「ハイビジョンクオリティを映すことができるテレビ」であるチューナー内蔵テレビの世帯普及率は19.3%でしかない。

つまり、NHKが「公共放送だから放送で国民に月からのハイビジョン画像を伝える」と言っても、最大でも2割ほどの世帯にしか、ハイビジョンクオリティでは届かないということになる。

一方、ブロードバンドの世帯普及率はインターネット協会の調べによると、今年3月時点において50.9%だ。つまり、現状では、放送しても2割の世帯にしか届かない情報が、ネットに出せば5割の世帯に届く。

もちろん現状では、1440×1080ピクセルの動画像を再生できるパソコンがどれほどあるのかという問題はある。しかし、パソコンの場合は縦720ピクセルや480ピクセルの画像ファイルを用意することで対応できる。前回の記事で述べた通り、縦720ピクセルや480ピクセルであっても、旧来のテレビ放送を超えた、ハイビジョンの威力を実感できる高画質の映像を実感できる。

NHKがネット配信に進出することに対しては、様々な議論が存在する。しかし、すでにニュースなどの一部配信が始まっている現在、国民に還元すべき成果を、そのもっとも有力な方法であるネット配信しない一方で、海外とのビジネスベースでは相手国内のネット配信を認めるというのは、国民に対する背信行為であろう。

かぐやの成果は、当然国内においてネット配信すべきものであり、同時に日本の成果として世界に向けて発信すべきものである。これは著作権以前の、日本の公共放送を担う組織の、矜持の問題ではないだろうか。

実のところ、その気になればディスカバリーチャンネル・カナダの画像を日本で観ることはできる。一番正統的な方法は、カナダ国内のプロキシー・サーバー経由で観るというものだ。ネットを捜せば、その他の方法も見つけることができるだろう。

それにしても、自国の探査機が撮影した月のハイビジョン画像を、カナダのサーバー経由で、法律違反におびえつつ観なくてはならない日本国民は、なんと不幸なのだろうか。

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

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