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ビジネスとネット公開を両立させる手段は存在する

NHKは、この件に関して、「放送局としてコンテンツは放送で提供する」という態度を取っている。海外についても「海外の放送局に素材を提供する」としており、ネット公開には否定的だ。

色々聴いていくと、NHKが公開を渋った理由は、「安易にコピー可能な形でネット流通させると、取得画像を使ったビジネスがしにくくなる」という危機感にあったようだ。

実際にインターネットでは、YouTubeの出現以来、動画共有サイトが一般化し、既存の著作権の考え方では著作権を侵害する動画像がアップされる事態になっている。特に日本のHDTV放送は、コピーガードのあまりの厳しさが問題になっているところでもある。NHKが、「事態が微妙なので、あえてネット公開をして事を荒立てたくない」と考えるのは理解できないわけではない。

また、成功が保証されない探査機に投資することを決断したNHKが、それなりにビジネスチャンスを持つのは当然だろう。

しかし、声高に権利を主張して一般へのデータ流通を阻害するのは、やりすぎではないだろうか。実際、静止画像にまで「JAXA/NHK」とクレジット入れるやり方は、NASAのアポロ8号による画像(画像そのものにはクレジットは入っていない)と比べて、「JAXA/NHKはケチだ」「誰の金で載せたカメラだと思っているのか」という印象をネットユーザーに与えかねない。

インターネットでハイビジョン動画像を公開することと、NHKのビジネスとを両立させる方法はいくらでもあったはずである。オリジナルの縦1080ドットの画像ではなく、縦480ドットや720ドットのやや縮小した動画像にしてもよかったろう。たとえ縦480ドットでも、既存のアナログ放送のテレビよりも高精細な画像になる。現行のアナログ地上波放送以下の画質である480×270ドットなどと言わず、それなりの画質で公開することは可能だったのだ。あるいは、取得した動画像のすべてではなく、ハイライト部分の15秒なり30秒なりに限定して縦1080ドットのハイビジョンクオリティで公開しても良かったろう。

NHKとしてはハイビジョン画像は、ハイビジョン受像器を買ってもらい、地上波デジタル放送、あるいはデジタルBSで見て欲しかったのだろう。しかし、現状ですべての世帯に受像器が普及しているわけではない。また、海外の放送局に映像素材を提供するといっても、海外のすべての国でHDTV放送が普及しているわけでもない。

放送局であるNHKとしては、オフィシャルには認めたくない事実かも知れないが、インターネットへの動画像掲載は、全世界に「これほど素晴らしい画像なのだ」と伝えるのに最高の手段なのである。

現状では、「かぐや」が取得した「地球の出」の画像は、「日本の月探査機がアポロ以来の、素晴らしい価値ある画像を取得した」という事実を広く知らせるよりも、NHKの狭量さを全世界にアピールしただけという、残念な結果となっている。特にNASAがずっと以前から“太っ腹”の情報公開を行っているだけに、「自分だけよければ」という態度は目立ってしまう。

画像の素晴らしさと反比例するかのような貧弱な公開方法は、著作権保護の利点よりもNHK、ひいては日本という国のイメージ低下という点で害のほうが大きい。今からでも遅くはない、JAXAとNHKには、ハイビジョンクオリティの動画像をネットで公開することを検討してもらいたいと思う。

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

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