一方、今回「かぐや」が取得したハイビジョン画像は、自分が月を回る軌道にいて、実際に地球が月の地平から見えてくるという疑似体験をさせてくれる。「月に行くということはどういうことか」を教えてくれるのだ。この動画像は、人間の認識の地平を広げたという点で、アポロ8号の「地球の出」画像と同等の価値があるとさえ言えるだろう。
アポロ8号の取得した「地球の出」画像は、その他の米航空宇宙局(NASA)の写真と同じく、非営利用途と報道用途に関しては出典を明記する形で自由に利用できるという条件で公開された。その後、インターネットも公開メディアも含まれるようになった。個人のネットユーザーもNASAの写真であることを明記すれば、この歴史的な写真を自分のホームページに掲載することができる。
NASAは1959年の設立当初から、取得した画像を積極的に公開してきた。それは一般国民にNASAの活動を積極的にアピールして予算獲得を容易にするという戦略に基づくものだったが、その後、世界各国の宇宙機関もNASAの方針にほぼ従ったため、宇宙関係では、公開された画像やデータを、一般が広く利用できるということが常識となった。
「かぐや」の取得したハイビジョン画像も、ネットで公開されれば、大きな利益を関係者もたらしたはずである。
世界は日本の月探査機が取得した圧倒的なヴィジュアル素材に触れ、「なんと日本はすごい技術を持っているのか」と思ったはずである。それは、世界における日本という国のプレゼンスを示すことでもある。
JAXAは、もちろん「かぐや」の存在意義を分かりやすい形で世界に、そして日本の一般国民に示すことができたはずだ。それは間接的にJAXAの予算獲得への援護射撃となったはずだ。
月面のハイビジョン画像は、NHKのニュースや番組で何度か放送された。ネットにはHDTV受像器で見た者の「テレビを買い換えておいてよかった」という声があちこちにかき込まれた。ハイビジョン画像をネットに公開していれば、NHKとしても、HDTVの圧倒的なクオリティを分かりやすく、ハイビジョン受像器をまだ所有していない一般の人々にも届けることができたはずだ。
それは、2011年のアナログ放送停波とデジタルHDTV放送移行に向けて、ハイビジョン受像器の普及を推進しなければならないNHKにとって、強力な援軍となったろう。
なによりも、アポロ8号以来の記念碑的画像を一般に公開することによって、NHKは、高い技術力を世界にアピールすると同時に、貴重な画像を人類共有の資産とする見識の高さを世界に示すことができたはずである。
しかし、NHKは画像をネットで公開しようとはしなかったのである。
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