国民からの資金と多くの人の協力により、ハイビジョンカメラは搭載された
そもそも、「かぐや」の開発段階では、NHKのハイビジョンカメラの搭載は、疑問視されていた。「かぐや」搭載の通信システムは月周回軌道から地球に10Mbps(1秒間に10メガビット)のデータを送信できるように設計されている。この速度では、1分間のハイビジョン画像を伝送するのに20分かかる。つまり、その他の科学観測機器の取得データを送信する時間が、圧迫されることになる。このため計画に参加した科学者達の間では「科学観測のための探査機が、ハイビジョンカメラのせいで十分なデータ伝送が不可能になるなら本末転倒だ」という意見が強かった。
それが、実際に探査機に搭載されるにあたっては、JAXA宇宙科学研究本部(ISAS)の的川泰宣教授(現宇宙教育センター長)が、ハイビジョン画像の広報的価値を見抜いて「搭載しよう」と周囲を説得したという経緯があった。
また、資金的に見るならば、「かぐや」搭載カメラは、国民からの受信料でNHKが開発したカメラを、税金で運営されるJAXAが開発した探査機に搭載して打ち上げたものだ。
つまり「かぐや」搭載ハイビジョンカメラは、NHKのカメラ搭載に向けた意志が、国民からの資金に基づき、「かぐや」観測計画に参加した科学者達の協力を得て具現化したものなのである。このことを考えるなら、NHKはいたずらに権利にこだわるのではなく、その成果の一部であっても国民にデータの公開という形で還元するのが筋だと考えられる。
現在すでに、ネットはハイビジョン画像の一般への公開の有力な手段である。確かにハイビジョンクオリティの動画像のファイル容量は巨大ではあるのだが、今やハリウッド製の映画はほぼそのすべてが、ハイビジョンクオリティで予告編画像をネットで公開するようになっている(例えばアップルの予告編ページを参照のこと)。ネットのインフラはすでに整備されているといえる。
NASAの歴史的画像は無償公開されているのに、ひるがえってNHKは…
「かぐや」搭載ハイビジョンカメラの取得画像の価値は、アポロ8号が撮影した歴史的な「地球の出」画像に優るとも劣らないといえるだろう。1968年12月21日に、3人の宇宙飛行士を乗せて打ち上げられたアポロ8号は、クリスマスイブの12月24日に月周回軌道に入った。そして、月の地平線の上に地球が浮かぶ、あの有名な画像を撮影した。
この写真は、人間が地球という小さな星の上で生きていることを実感させる写真として高い評価を受けている。
アポロ8号の「地球の出」の映像は、フィルムカメラを用いて宇宙飛行士が撮影した静止画像だった。遠くから「地球という星の実物を見る」所に意味があったのだ。
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