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中国の国際的イメージは大きくダウン

衛星破壊実験は、冷戦時代にアメリカと旧ソ連がそれぞれ実施したことがある。しかしスペース・デブリをまき散らすことの問題点が明らかになったため、1985年を最後に米ソ共に実験を中断していた。

今、このタイミングで中国が実験を実施した理由は、明らかにアメリカが進めるミサイル防衛構想(MD)への対抗措置だろう。MDでは、衛星軌道上に赤外線センサーを搭載した早期警戒衛星を配備し、大陸間弾道ミサイルの発射を宇宙から検知する。実験を行うことによって、中国はアメリカに対して「いざとなれば衛星破壊も辞さないし、そのための手段も持っている」というサインを送ったわけだ。それは同時に、中国が将来的にアメリカに対抗する超大国を目指すという意思表示であり「だから我々の意志を尊重せよ」という無言の要求でもあったわけだ。

しかし、どうやら中国首脳部はスペース・デブリに関する認識が甘かったようだ。国際社会は「中国は、自国の利益のためにはスペース・デブリの放出のような、人類全体の未来に有害なことであっても行う、無神経な国である」と受け取ったのである。

中国にとって、今回もっとも望ましい事態は、アメリカの観測網によって実験が観測され、しかもアメリカが一切を公表しないことだったはずである。しかし、実際には、1月17日に、米エイビエーション・ウィーク・アンド・スペース・テクノロジー誌が米中央情報局(CIA)情報として衛星破壊を報道した。エイビエーション誌は別名「政府御用達リークメディア」と言われるほど、米政府筋がリークに利用する雑誌だ。明らかにアメリカ政府には、中国の実験を国際問題化する意志があったのである。

アメリカは、翌18日に大統領府のスノー報道官が、中国政府に「懸念を伝達した」ことを明らかにした。同日中にカナダとオーストラリアも中国に対する懸念を表明した。

日本政府は、19日午前の記者会見において、塩崎恭久官房長官が「宇宙の平和利用、安全保障上の観点から当然のことながら懸念を持っている」と述べた。同日、麻生太郎外務大臣も米国から通報を受けたことを明らかにし、懸念を表明した。

ついに中国は、22日に各国政府への説明を行い、23日には外務省報道官が衛星破壊実験を実施したことを公式に認めた。中国側は「他国に脅威を与える意図はなく、宇宙での軍拡をあおるつもりもない」と弁明したが、これはもちろん外交的な言い訳にすぎないだろう。

その後も欧州連合(EU)は24日に、開催中のジュネーブ軍縮会議の席上で、「宇宙での軍備競争を拡大しないとする国際的な努力に逆行する」とコメントし、中国が反論するなど、余波は続いている。

ロシアは、25日にインド訪問中のプーチン大統領が、「このような実験は1980年代にも行われており、中国が最初ではない」と中国に対する一定の理解を表明した。これは「ここで中国に恩を売っておくべき」という打算に基づく発言だろう。

今回の実験では、中国が衛星破壊能力を保有することがアメリカに伝わった。中国としては、第一の目的が達成されたので、今後しばらくは実験を行うことはないだろう。しかし、同時に実験は全世界に対して「中国は何をするか分からない、無神経な国だ」というチャイナ・リスクを強く印象付けることとなった。今後、来年の北京オリンピックに向けて、中国が負ったダメージは、決して小さくないと考えるべきである。

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

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