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なぜLUNAR-Aは許され続けたのか

計画管理に対する反省と同時に、10年以上の計画遅延と30億円もの開発費超過を許しつづけたISASの組織経営についても、実態を明らかにしなくてはならないだろう。なぜ誰も、LUNAR-A関係者に計画管理体制の改善を進言できなかったのか。水谷氏は、理学系研究者として業績を上げ、実力もあった。だが、理系研究者としての資質と実績と、探査機開発の計画管理能力が比例するわけではない。

それやこれや含めて、関係者に免責特権を与えてのヒアリングは是非とも実施すべきだろう。

閉鎖的なマネジメント体制にもかかわらず、1997年頃からISAS外部でも「もうLUNAR-Aはダメではないか」という話が漏れ聞こえるようになった。

それから10年も、ISASは超過した開発費を融通しつつLUNAR-Aを延命させてきた。誰がどこで、どのような決断を下すべきだったかは、事実関係を明らかにすることでしか解明できないはずである。

スペースシャトル事故調査のような集中的な調査と報告書作成を

LUNAR-Aの開発は、探査機本体が約100億円、ペネトレーターの開発が当初の24億円という見積もりが30億円超過して、54億円となった。探査機本体は、現在開発中のGXロケット1号機のテストペイロードとして再利用する案が浮上している。また、結果として完成度の高いペネトレーターができたので、海外探査機に搭載して探査を実施するならば、開発費が無駄になったとは言えない。だから154億円が無駄にという言い方は言い過ぎであろう。

それでも、合計154億円のプロジェクトを中止するのだから、その原因は徹底的に追求し、再発防止策を策定して実施するのが筋である。LUNAR-Aの中止には、技術的難点もさることながら、マネジメント体制や組織の体質が大きく関わってきている。

今後、日本の宇宙科学が一層発展するためには、宇宙開発委員会への報告だけで終わらすのではなく、徹底したヒアリングと事実関係の調査で、組織体質にまで踏み込んだ調査を是非とも行う必要がある。

私は、アメリカが2度のスペースシャトル事故で採用した独立調査委員会方式による調査と分析を、LUNAR-Aにも適用すべきと考える。外部の適任者数名を選び、LUNAR-Aに関するすべての書類、設備へのアクセスと、関係者へのインタビューを保証する。そしてインタビューされる側には、いかなる隠蔽もしないという義務を課した上で免責特権を与える。その上で3ヶ月程度の集中的な調査を行った上で、調査報告書を一般に公表し、今後の糧とすべきではないだろうか。

それは同時に、今後の宇宙開発において必ず発生するであろう事故に対して、事故調査のスタンダードを確立することにもなるはずだ。

LUNAR-A中止で問われるのは、単なる計画中止の責任問題ではない。

JAXAという組織の自己改革能力である。

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

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