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より安く、より柔軟に、より優しく

M-V改良型の目指す方向は、性能と打ち上げ作業の容易さはそのままに、「より安く、より柔軟に、より衛星に優しく」ということになろう。もしも、この目標を実現できるならば、別に科学衛星打ち上げ用に用途を限定する必要はない。適当なサイズの技術試験衛星や、実用衛星、さらには、売れるかどうかは価格と営業努力次第となるが──商業打ち上げに適用しても一向に差し支えないだろう。

その上で内之浦宇宙空間観測所からの打ち上げを継続し、「2ヵ所から、2種類の技術文化に乗っ取った2種類のロケットを打ち上げる」という体制を継続すべきである。これは、一方が事故を起こしても、もう一方に影響を与えないということにもつながる。異なる二系統の技術を保有することは、単なる高コストな組織構造ではない。長期的には、事故に対して打たれ強くなるということである。打ち上げ設備を集約するよりも、長い目で見れば低コストとなるはずだ。

同じ組織のロケットなので、一方で事故が起これば、もう一方も原因究明に全力を挙げるために停止するというのは、全く無意味なポーズ作りでしかない。目指すべきは、継続的で途切れない宇宙活動を実施できる体制だ。

内之浦を維持するということは、これまで積み上げてきた宇宙研方式を運用し、生かし続けるということでもある。内之浦を維持する一方で、旧NASDAとの人的交流を進め、宇宙研方式の利点を、組織全体で共有するべきだろう。そのためには、旧NASDA側の技術者も、「40年近く以前の技術導入時に、アメリカから貰った書類からはみ出さない」という思考から脱却する必要がある。

JAXA社内では、「ワンJAXA(一つのJAXA)」というスローガンが使われている。それは、旧NASDAが、JAXAのすべてを飲み込むということではないだろう。統合された旧組織の良い部分を集約するという意味ではないだろうか。

「低コスト化で岐路に立つM-Vロケット」は今回で終了です。

松浦 晋也(まつうら・しんや)

ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)などがある。

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