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低コスト化で岐路に立つM-Vロケット(2)〜失敗が生かされない設計の裏に旧組織からの確執

2006年5月29日

旧宇宙開発事業団(NASDA)系の第1段に、旧宇宙科学研究所(ISAS:現在の宇宙科学研究本部も同じISASという略号を使っている)系の第2段、第3段というM-Vロケットの低コスト化案は、かつてNASDAが開発した失敗作「J-I」と全く同じである。まっとうに考えれば、筑波のロケット開発グループは問題点を理解しているはずだ。

それでもSRB-A流用を推す背景には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)内の旧NASDA関係者の間に、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県・肝付町)のM-V発射設備を移転し、種子島宇宙センターにロケット打ち上げを一元化したいというという思惑があるためだ。表向きの理由は、施設維持運用コストの削減だが、その奥には1960年代以来の旧文部省と旧科技庁との確執が存在する。

しかし、内之浦の発射施設は、地形から打ち上げ隊組織までのすべてに特化、最適化されている。種子島に移転すれば莫大な手間と費用がかかることになるだろう。

安易な流用は失敗の原因に

機械設計の分野では、「低コスト化を目的とした安易な既存部品の流用は、結局高く付く」という鉄則が存在する。確かに今すでに存在する部品の流用は、ゼロから新規開発するよりも楽だし安くつくように思われる。しかし、同じ部品を同じ条件で使用することはめったにない。だから流用には試験が必要で、試験の結果如何では改造することが必須となる。

そうして改造した部品の性能は、たいていの場合、ゼロから新規開発した場合よりも悪い。そして試験と改造に必要なコストは、新規開発した場合よりも安く上がるとは限らない。安易な流用は、開発コストを押し上げ、結果として完成した製品の性能は新規開発より悪化するという結果を招く。

宇宙分野での典型的な例は、1992年に米航空宇宙局(NASA)が打ち上げた火星探査機「マーズ・オブザーバー」だ。マーズ・オブザーバーは開発コスト低減のために、衛星構体は、地球を南北に回る極軌道を使う軍事気象衛星「DMSP」のものを、内蔵する電気系は軍事静止通信衛星「SATCOM-K」のものをそれぞれ流用した。

ところが火星周辺と地球周囲の極軌道や静止軌道では、環境条件が全く異なる。マーズ・オブザーバー開発にあたっては追加の試験と改修が必要になり、開発コストは総額で9億8000万ドル(1ドル110円として1078億円、120円として1176億円)にまでなった。これが直接の原因ではないが、マーズ・オブザーバーは推進系バルブのトラブルから、火星到達直前に通信が途絶し、探査は失敗した。

next: 手痛い教訓となるはずだったJ-Iの失敗…

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