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影響力を増す議決権行使助言機関

最後の事例はアデランスだ。買収提案者はまたもやスティール・パートナーズ。同ファンドは24%以上のアデランス株を保有する筆頭株主だった。加えてアデランスには、スティールを含め実に50%近い外国人株主が存在していた。

こうした状況下、アデランス経営陣が提案した買収防衛策は、株主総会での可決(普通決議の50%以上)に持ち込むことは大変困難と見られていた。

はたして2007年5月24日のアデランスの定時株主総会は、賛成票55%という僅差で防衛策導入を承認した。アデランス経営陣に「薄氷の勝利」をもたらしたのは何だったか。理由を考えるうえで、議決権行使助言機関の存在が大きい。米国ではすでにこうした機関の存在意義が浸透しており、彼らの評価に機関投資家が左右されるケースが多い。アデランスのケースでも、議決権行使助言機関の1つであるISS社が「防衛策導入賛成」に回った。これを受けて、外国人投資家の何割かが「賛成」をして、薄氷的勝利が生まれたと見てよい。アデランスのISS対策が功を奏したと考えられる。

現在、日本企業の株式の実に4分の1までを外国人投資家が保有している。彼らは先に紹介した「企業ファン」的日本人株主と違って、多様な情報を基に合理的に判断を下す。ISS社をはじめとする議決権行使助言機関の発言も大いに参考にする。企業経営陣にしてみれば、議決権行使助言機関への対処が非常に重要になってくるものと思われる。

以上のように、現代の企業M&Aの世界は、非常に速いスピードで複雑さを増している。私たちピナクルのもとにも、「お家の一大事」にかかわる、防衛アドバイスを求めるニーズが急増している。話題になった案件7件のうち、2、3件の防衛アドバイスをピナクルで引き受け、成功に導いた。M&Aの知識はもはや、「売る」「買う」だけでは不十分である。「守る」知識も必要になってきている。これを機に、次々に変化するM&Aノウハウやそれにまつわる専門用語についての基礎的理解を深めていってほしい。

議決権行使助言機関
投資家が議決権を行使する際に、適切な判断が下せるようサポートする組織のこと。投資している企業の業績や、他の投資家の動向など、多様な情報を収集して投資家の判断に役立つ助言を行う。前回紹介したサッポロホールディングスとスティール・パートナーズとによるプロクシーファイトには、3つの議決権行使助言会社が絡んでいたと言われている。

ISS
インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ社(Institutional Shareholders Services)のこと。米国を代表する議決権行使助言会社の1つ。ISS社は2007年5月、ファミリーマートやベスト電器など6社の買収防衛策導入についても、機関投資家に対して「助言」したことを明らかにして注目を集めている。このときは、いずれも企業経営陣が導入を主張した買収防衛策に「反対」することを勧める「助言」だった。

安田 育生(やすだ・いくお)

1953年生まれ。一橋大学卒業後の1977年、日本長期信用銀行に入行。1997年、GEに転職しマネージングディレクター、事業開発本部長を務める。1999年にリーマン・ブラザーズ在日代表就任。そのほか、九州大学客員教授(現任)。提言グループ「グループ21」「医療システム研究会」代表幹事など社会活動にも従事。テレビなどのメディアに、コメンテーターとして数多く登場している。2004年、M&Aをコアミッションとするアドバイザリー会社としてピナクルを設立した。日本におけるM&Aの草分け的存在。

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