目に見えない微生物を可愛がれる男〜ヨネビシ醤油 専務 黒羽 一望氏(2)
(荒川 龍=ルポライター)
1980年に発売した「米菱醤油」は、1年半をかける二度仕込み醸造が生んだ、ヨネビシ醤油の代表作の一つだ。その開発にかかった30年超の軌跡は、黒羽の醸造家人生と重なる。それは同時に、彼にとって「目に見えない微生物を可愛がれる男」に成長するための歩みでもあった。
約90年前の木桶と微生物が伝統の源泉
木造の本社屋に隣接する、諸味用の仕込蔵を特別に見せていただいた。二重に施錠した白壁土蔵の中は、夏は涼しく冬は暖かい。黒羽は、木桶に棲みついた100種類を超えるとも言われる微生物たちが好む環境なんです、と言う。
蛍光灯を点けると、目の前に約90年前に作られた木桶群が現れた。直径約3m、高さ約3m、容量約1万リットルの木桶62個の隊列。地元産の杉で作ったもので、かなり木肌が剥げていて白い。どの木桶にも、色あせた幅10cm強のタガを4本はめている。タガは、青竹を何本も束ねて捻(ね)じるようにしてつくったものだ。

木桶
「この木桶は、適度に諸味を出し入れして使い続ける方が、乾燥して傷むことも少なく、むしろ長持ちするんです。不思議でしょう?」
酪農家が牛の腹でもさするように、黒羽は木桶を右手で撫(な)でながら話す。
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