来週からは『無名社長の節税日記』と題した連載を開始(したい)
さて、こうして無事に会社も誕生したところで改めて思うことがある。確かに、設立手続きは簡単だった。なにせ私のような素人でも参考書を片手に設立できてしまったのだから。また最低資本金の縛りの撤廃をはじめとする各種規制の緩和などの施策にも一定の評価を与えてしかるべきだろう。
「しかし」と私は思う。それでも会社設立の一連の手続きにはまだまだ無駄がある。例えば本連載で何度か話題にした公証役場での定款認証は、公証人の既得権益を守るために存在しているとしか思えない。登記用書類についても、やれ製本テープを用意しろだのOCR用紙の書式だのと、面倒なことが多すぎる。前段で述べた賃貸契約書の提出にしても、必須にしている自治体とそうでない自治体とがあると聞く。なぜ統一フォーマットでできないのか。
そもそも会社を設立する程度のことがどうしてワン・ストップでできないのだろうか。法務局の窓口で定款認証から登記、保険類や税務関係の届出を行なうようにして、それの一体なにが問題だろうか。これは私の住まう市に限ったことではあるまいが、公証役場・法務局・税務署・県税事務所・社会保険事務所は、それぞれ数キロ離れた(しかも地の利はごく悪い)ところに点在している。そのすべてを回って手続き・届出をせよというのは、『となりのトトロ』と『火垂るの墓』とを同時上映するに等しい嫌がらせであろう(※8)。
ともあれ、いまや私は社長である。無名ライターが無名社長になったところで特に大きな変化が訪れるはずもなく、明日からもこうして生きていくだろうと思っているが、それでも社長は社長だ。
もちろん、依然として不安はある。このたびの会社設立は、いわば一種の喧噪状態の中で行なったものであって、だから祭りのあとの寂しさは嫌でもやってくる。それでも「なんとか頑張ってやろうじゃないか」という気持がふつふつと湧いているのもまた確かなのだ。
そう遠くない将来、出版業界はビジネスモデルの大きな変革を余儀なくされるだろう。倒産する出版社も出てくるに違いない。しかしそれでも、人々から「文章が読みたい」という欲求が消えるとは思えない。そしていかにITが進歩しようとも、取材や執筆だけは自動化はできまい。私はそこにある種の勝機を見るのだ。
そう考えられるようになったのも、当連載の間中、読者諸賢がコメント欄から温かい励ましや愛ある叱責をくださったおかげである。当連載を終えるにあたり、ここに深く御礼を申し上げる次第である。私が目指すのは顧客満足度日本一の編集プロダクションだ(※9)。かくして出版業界における残酷な寡占が社是だ。ほとばしる熱いパトスで中年(=私)よ、神話になあれ!
なお、わが社の安定した売上を確保するべく、来週からは『無名社長の節税日記』と題した連載を開始、したいものである(※10)。
(了)
※8:これも聞いた話だが、映画館は子どもたちの絶叫で阿鼻叫喚のちまたと化したそうである。
※9:こう書いて、編集部からは「取りあえず、締め切りをきちんと守るところから始めてはいかがでしょう」と、やんわり皮肉を言われた。正論すぎて反論できなかった。しかし私の最終顧客は、読者諸賢である。
※10:それとなく新連載を打診してみたが、一言「あんたバカぁ?」と返された。当然と言えば当然かもしれない。
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