日本酒の奥深い世界にはまる 着実な仕事が杜氏として結実〜杜氏 フィリップ・ハーパーさん(2)
(伝農 浩子=フリーライター)
(第1回はこちら)
新年のお神酒から始まり、人間関係を円滑にするお酒は大事な存在だ。そんなコミュニケーション・ツールとしての日本酒に興味を持ったイギリス人のフィリップ・ハーパーさん。日本酒好きが高じて酒蔵(酒造りの場、または酒造元)に通ううち、酒造りに強く惹かれてしまった。念願かなって酒蔵に入り17年経った今では、蔵人(酒造りのスタッフ)をまとめるリーダーである杜氏として、酒造りの一切を任されている。しかし、日本に来たのは、酒造りはおろか、日本酒や日本について興味を持っていたからというわけではなかった。
“お酌”でコミュニケーションが円滑に

杜氏のフィリップ・ハーパーさん
(Philip Harper)
イギリス生まれの杜氏、フィリップ・ハーパーさんは、オックスフォード大学卒業を前に、たまたま募集していた日本の英語教師派遣プログラム「JET」の試験に合格し、1988年に来日した。
英・独文学を専攻していた大学時代、ドイツに1年間住んだ際、旅行や短期滞在で訪れるのとは全く状況が違うことに驚き、どこか他の国にまた住んでみたいと思ったのだ。
「日本のことは全く知らなかった。日本語はもちろん、和食も食べたことがなかった。知っていた都市も広島、長崎、東京くらい。4人一緒に試験を受けたんですが、面接で誰も当時の首相の名前を答えられなかったんですよ(笑)」
来日し、大阪に派遣されて市内の小・中学校、高校で英語を教える。もともと語学に興味はあり日本語を覚えることも負担ではなかったが、最初はほとんど話せない。赴任先の学校の教員や職員も英語を話せずコミュニケーションは難しかった。ところが、宴会になると全く違った。
「席に座ってもどう話していいか分からなくて。でも、周りを観察していたら、お酌して『どうも、どうも』とかやってる。小さいグラス(お猪口)で(笑)。そうか、日本人はこうやってコミュニケーションを取るんだ、と分かった。そうしたら、とても気が楽になったんです。宴会で、お酌という場があると、言葉がなくても伝わる、と」
もう1つ気付いたのが、日本酒そのものの奥深い魅力だ。香りのない米と水から造られ、色も透明なのに、香りも表情も豊かな酒に惹かれた。英語教師として2年の任期を終えるころには、日本酒にかかわる仕事をしたいと思うようになっていた。
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