素材の米は造る酒に合わせて決めるが、米の出来は毎年同じではない。同じ銘柄でも機械的に毎年同じ造り方をしては、味や質が同じような酒にならないのだ。どうやって同じ方向に持って行くか。それを工夫するのが杜氏の仕事でもある。
「今期(タンクで)30本仕込んだんですけど、商品群で言うと10数種類あります。もし、タンク1本でも失敗したら、標準的なもので一升瓶1000〜2000本分がだめになる。そんなことを考えると怖くてこの仕事はできないんですけど……。昔は失敗して自殺した杜氏もいた、という話はよく聞きます。毎日、緊張。神経が疲れる仕事ですね」
酒造りにかかわって以来、醸造の神様でもある、奈良県三輪山の大神神社(おおみわじんじゃ)に毎年のように詣でている。造り酒屋のシンボルともいえる杉玉の起源を持つという説もある神社だ。

酒造りや熟成に使われるタンクがずらりと並ぶ
もし、理想の蔵を造るなら、と聞いてみた。
「お金のことなど考えなくて良いなら、木造の室で、昔ながらの造り方をしてみたい。現代はステンレスなど手入れの楽な麹室が増えていて、温度や湿度を調整しながら麹を作る。雑菌が入るリスクは少ないけれど、木の室は温度や湿度の調整を自然にやってくれる部分が多く理に適っている。ただ、現実に昔ながらの蔵を新しく造るとなると、お金もかかるけれど、職人さんがまず見つからないでしょう。昔ながらの伝統的なスタイルはもう終わりかけてる。しょうがない部分もありますね」
どうしても、「外国人の杜氏」と見られてしまうハーパーさんだが、本人にその意識は全くない。酒造業界の形態が大きく変わっている今、いずれ、「外国人だから珍しい」という以前に、「伝統的な杜氏制度を知っている数少ない人」になってしまうかもしれない。
次回は、ハーパーさんが酒造りの世界に入るきっかけや、いろいろな試みなどについて伺います。
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