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こういったお客様の苦情は、本当にありがたいものだ。事情を説明し、謝り、お礼を申し上げた上で、店のシステムを確認しなければならない。

かたや「クレーマー」の金品要求型には、こんな人がいた。

「おたくの商品に欠陥があった。交換に来い、とおたくの係長から言われたから、今、高速道路に乗って、そちらに向かっている」と男性が百貨店に電話をかけてきた。「高速道路で」とわざわざ付け加えるところから、暗に「高速道路代金」を要求しているのだと思った。百貨店の係長がお客様に「来い」と言うわけはなく「こちら方面へおいでの予定はありますか」と言っただけだという。来店した男性は、スカーフに付いたわずかなかすり傷を口実に、それをブランド品と交換、さらに後日、私が自宅に呼びつけられ、往復の高速代も請求された。後にこの男性は一流企業の社員で、地域でも有名なクレーマーだと知った。

愉快犯型には、「5回履いただけの靴下に穴が開いた」と、現物もレシートも持たずに来店した男性がいた。おそらくこれまで同じ手口を試してきたかのような、落ち着き払った物言いだったので、その手に乗ってはいけないとピンときた。 「現物をお持ち頂けますか、こちらに瑕疵(かし)があれば対応しなければなりません」というと、「家にあると思うけど」。「ではご連絡先を教えて頂けますか」と問いつめていくと、最後は「もういいよ」と去っていった。

こういったクレーマーは、企業にとっては必要でない顧客だといえる。上記の2人は、出入り禁止にしたい客として、店でファイルした。本当に大切なお客様への対応に割くべき時間とエネルギーを、無駄に使ってはならないと考えるからだ。

対話不足がクレームを生んでいる面も

■クレーマーは増えているのか。

関根 増えていると実感している。背景には、人と人との対話不足があるのだろう。

私は、ソニーのウォークマン出現が境になったと思う。1979年のウォークマン出現以前は、通勤電車の中で、おしゃべりする人が多かった。1人で乗っている人は新聞を読み、それを周囲の人も一緒に読んでいて、しまおうとすると「まだ読んでない」と声が飛ぶことさえあった。しかし、ウォークマンその他のヘッドフォンステレオが普及すると、会話不要の人間が増え、電車の中では誰も喋らないのが常態化した。さらに携帯電話やパソコンが普及。メールやネットが当たり前になったので、対面でのコミュニケーションが減ってきた。人と話す機会が減っているので、百貨店の店員は、客の不満をうまく受け止める対話力に欠けている。客の側も、不満を爆発させずにきちんと店に伝えることができない。79年に20歳だった人は、今48歳、企業の管理職でもあり客でもある。社会全体がコミュニケーション下手になっている、といっていい。

加えて、他人に羨望や恨みを抱く人が、その鬱憤を晴らしたいという側面もあるだろう。

一度、ヤクザのクレーマーに対処したとき、最後に彼が言ったことが忘れられない。 「関根さん、オレたちから見れば、百貨店に勤めている人間は、エリートに見える。だからつい、ささいな事でもカチンと来てしまうんだ。堪忍して」

クレームも、その背後にある人の心理を読まなければ、と強く思った。

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