このページの本文へ
ここから本文です

今から10年前、千葉県銚子市の水産加工会社で働く中国人研修生を取材したことがある。そのあまりにもひどい受け入れ先である協同組合の中間搾取に怒った研修生の中には、研修現場を放棄して逃走した者もいた。その逃走研修生はやがて横須賀の農家で働くようになった。

夏は朝6時に出かけ、夜は9時頃にようやくアパートに戻る。過酷な肉体労働に懲りた彼は何度も辞めようと考えた。しかし、仕事を辞めたいと言うたびに、雇い主である60代の日本人に泣きつかれた。働き手のない日本人はどうにかして彼を引き留めようとする。後継者のない農家の悲劇もそこにある。彼は自分の動揺に対して、次のように語った。

「自分がもしここを出たら、お爺さんはもう農業をやっていけない。いくら捜しても若い働き手が見つからないからだ。そのことを考えるとお爺さんのことが不びんに思えて、働き続けることにした。」 この話は日中友好の美談として捉えるよりも、日本の農村実情を映した悲話として受け取るべきだろう。休耕地を再び農産物の生産に利用する話もあるが、肝心な働き手がいない。未明に起きて、日がすっかり暮れるまで重労働の野良仕事に耐えられるような日本の若者が何人いるのだろうか。

日本の食糧の自給率を高めよう、日本産農産品を食べよう、と簡単に言える状況ではない日本の現状に日本人は気づくべきだ。

莫 邦富(モー・バンフ)

1953年中国・上海生まれ。上海外国語大学卒業後、同大学講師を経て、85年に来日。知日派ジャーナリストとして、政治経済から社会文化にいたる幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭(スネークヘッド)」といった新語を日本に定着させた。

「蛇頭」、「中国全省を読む地図」、翻訳書「ノーと言える中国」がベストセラーとなり、話題作には「日本企業がなぜ中国に敗れるのか」、「これは私が愛した日本なのか」、「新華僑」などがある。

最新刊に「mo@china 莫邦富・中国レポート」、「中国の心をつかんだ企業戦略」。現在、朝日新聞be(土曜版)にて「mo@china」を連載中。

(全 3 ページ中 3 ページ目を表示)

あなたのご意見をコメントやトラックバックでお寄せください

記事検索 オプション

日経BP社の書籍購入や雑誌の定期購読は、便利な日経BP書店で。オンラインで24時間承っています。

ご案内 nikkei BPnetでは、Internet Explorer 6以降、 Safari 2以降、Opera 8以降、Netscape 8.1以降またはHTML 4.01/CSS level 1, 2をサポートしたWebブラウザでの閲覧をお勧めしております。このメッセージが表示されているサポート外のブラウザをご利用の方も、できる限り本文を読めるように配慮していますが、表示される画面デザインや動作が異なったり、画面が乱れたりする場合があります。あらかじめご了承ください。

本文へ戻る