カンボジアへ移転するアパレル企業と人材
このコラムの第33回で少し触れたが(関連記事)、1月下旬、NHKの地球特派員というドキュメンタリー番組に取材出演するためカンボジアを訪れた。私にとっては13年ぶりのカンボジア訪問だったが、その変化の大きさには驚いた。
海外で中国関連のテーマの取材をするとき、私はいつも地元で発行される中国語新聞を買う。地元の中国人社会の情報を手っ取り早く収集するためだ。アンコールワットがあるシュムリアップに到着した夜、食事を済ませ散歩がてら街角にあるコンビニをのぞいた。やはり中国語新聞を置いていたので、早速購入してホテルに戻り、寝る前に目を通し、広告のページに目を見張った。まず、ページ数の多さに軽いショックを覚えた。次にその内容に眠気が飛んだ。
広告の大半は衣料品工場の求人広告だ。技術工や生産現場の管理職を求めている。しかも、その多くは「中国籍」を必須条件としている。中国語新聞だから、読者の多くは中国人か現地の華僑・華人だろう。なぜわざわざ中国籍を求めるのか理解に苦しんだ。
日曜日に、中国人社会では中央市場と呼ばれるオールドマーケットに出かけ、買い物に来ていた中国人数人をつかまえていろいろと取材してみて、ようやく理由が分かった。
カンボジアに進出した衣料品工場の多くは台湾、香港、中国本土系統の資本の傘下にある。中には10年前にすでに中国からカンボジアに進出していた香港企業もある。近年は中国本土資本の企業も増えている。狙いは明白だ。人件費が年を追うごとに高くなってきている中国沿海部では、コストが次第に合わなくなりつつある。企業同士の競争も信じられないほど厳しくなり、よほどの努力をしないととても生き残れない。こうした状況の下で、中国にある衣料品工場の経営者は次第に目を海外に向け始めた。90年代の前半に平和を取り戻したカンボジアがその選択肢として浮上してきたのである。人件費の安い中国の内陸部に進出するよりも、米国やヨーロッパへの衣料品輸出割当枠が確保しやすいカンボジアの方がメリットは大きい。農村部には廉価で豊富な労働力がある。
しかし、カンボジアではスムーズな生産体制を維持するために必要な技術者や管理職が確保できないことが悩みの種だ。資本元の台湾や香港などに行ってこうした人材を求めようとしても、そんなに大量には確保できない。そこで中国人に関心が集まった。
中国人ならば応募者が多い。80年代や90年代の前半に中国本土に進出した台湾や香港の親会社との連携をスムーズにするためにも、中国語のできる人材だとなにかと便利だ。こうして衣料品工場で勤務した経験のある中国人が数多くカンボジアに吸い込まれた。
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