経営感覚が鋭い上海のタクシー運転手が話題に
前回のコラムでは、私が社外取締役を勤める日系部品メーカーの例を紹介した。加工コストを知らず赤字のまま、ユーザーの家電メーカーの値下げ要求を受け入れ続けながら仕事を受注していた現状を変えたい、という趣旨であった。
このメッセージを日本人幹部に伝えるために、あるエピソードを交えたメールをそれぞれの日本人幹部に送った。2006年3月ごろ中国で話題になり多くのメディアで記事になった「スーパータクシー運転手」の話題だ。この話題は日本ではあまり知られていないので、今回のコラムで読者にも紹介したい。その運転手は、「上海大衆タクシー」に勤めている。事の発端はこのタクシーに乗ったマイクロソフト中国の幹部が書いたブログだった。その内容を紹介する。
オフィスビルを出て空港に向かう幹部の前に、一台のタクシーがまっすぐ走ってきて止まった。運転手は、オフィスビルを2周して遠くへ行きそうなあなたの乗車を狙っていたのだ、と打ち明けた。「すごい眼力だね」と幹部は驚いた。
まず運転手は彼のコスト意識を披露した。毎日会社には、1日当たり定額の380人民元と燃料費に相当する約210人民元を納める。それ以上稼げば運転手の手取りとなる仕組みだ。17時間働くので1時間当たりのコストは34.5人民元だ。次の客を乗せるまでの平均空車走行時間は7分間。もしワンメーターの客を乗せれば、実車走行時間が10分で、料金が10人民元。合計17分間で10人民元の収入しかないという計算になる。しかし、17分間のコストは9.8人民元だから「そうなると食っていけない。だから、いかに長距離のお客さんをつかむかが腕だ」という。
ここまでコスト意識をもつ運転手は珍しいと思った幹部は、ではどのようにいいお客さんを見分けるのか、とさらに掘り下げてみた。
まず客を見つけるために、やたらと走り回るのはよくない。客待ちの場所と時刻をわきまえて、客を選択する。たとえば、病院の前で薬をもった客と洗面器をもった客がいるとすれば、タクシーをどの客の前に止めるべきかを判断する。運転手は洗面器をもった客の前に止まると断言した。薬をもった客はたいてい普通の病気を治療するために病院に来た者だ。しかし、洗面器の方は退院した人だろう。病気を治して退院したときは、生まれ変わった解放感があり、命の大事さと健康が第一だということを思い知らされている。だから、郊外の自宅に帰るときでもタクシーを使おうとするのだ。近くの地下鉄の駅まで乗って行って、そこで地下鉄に乗り換えようとは考えない、という。
next: ここまで話を聞いた幹部は…
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