疫病は警告する/濱田篤郎 著
(田邊俊雅@nikkeibp.jp)
ハンセン病、ペスト、梅毒、天然痘、マラリア、コレラ、結核、黄熱、インフルエンザ、発疹チフス、エイズ、SARS…。本書で“疫病”として取り上げている感染症である。本書では“疫病”を「爆発的に流行し、社会全体が恐怖に戦慄する感染症」と定義している。この、社会全体が恐怖に戦慄、という部分に重きを置いて、感染症が歴史や社会に及ぼした影響について、さまざまなエピソードを交えて詳しく述べているところが本書の特徴であり、面白いところである。
シルクロード交易、十字軍、コロンブスの新大陸発見、西欧諸国によるアフリカやインドの植民地化など、人が移動するとそこに新たな感染症の流行が始まる。免疫のない状態で生活してきたところに突然異民族が来襲し、感染症もいっしょに運んでくるからだ。開発が進むにつれてその地域に封じ込められていた感染症が外に向かって広がる、ということもある。
これらの激烈な感染症は、正しい知識のない時代には、いわれのない偏見や差別にもつながった。社会全体を戦慄させたのである。また、戦争の帰趨(きすう)を変えたり、歴史ある王朝を滅ぼしたりと、歴史そのものを大きく変える役割も果たしたのである。数字や医学的な厳密さよりも分かりやすさを重視した内容になっているため、ところどころ「急激にってどのくらいの期間で何人くらい?」などと思う部分も散見されるが、論旨は非常にわかりやすい。
本書で取り上げられている感染症のうち、SARSだけがインターネット商用化以降の病気である。そしてSARSは、その症状の激しさを考えると犠牲者(死者は831人)が非常に少ないことが分かる。例えば、人類史上、短期間に最も強力な破壊力を示したのは、20世紀初頭の「スペイン風邪」と言われているが、死者は4000万人である。スペイン風邪によって終結が早まったと言われる第一次世界大戦の戦死者は850万人だという(戦場でスペイン風邪で死んだ場合、どっちにカウントされるのかなど細かい疑問もあるが、ざっくりとした規模感は納得できると思う)。
著者の濱田氏も指摘しているが、これは、現代の医学の進歩だけが理由なのではない。インターネットでの感染情報の素早いキャッチ、状況の把握と共有、判断や対応のための正しい情報の発信、といったことが、インターネット以前とは比べ物にならないレベルで世界規模でに実現したからなのである。
SARSは、飛行機による移動が世界中に極めて短い時間で感染症を広げる可能性があることも示したが、それ以上にインターネットが予防と対策のために極めて重要な役割を担っていることも証明したのである。
危機的状況においては、正しい知識がない状態が最も危険な状態である。間違った情報一つで全体がパニックに陥る可能性があるからだ。感染症とは多少違うが、BSEなどもまさに同じような性格を持っている。インターネットには、玉石混交の情報が大量に存在し、ダークサイドもたくさんある。また、犯罪やセキュリティ面での不安もある。しかし、危機に際して、正しい情報を世界規模で共有できることのメリットは計り知れない。間違いなくインターネットは、医学の一部となっており、われわれの日常生活を支える存在になっている。
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書名:疫病は警告する〜人間の歴史を動かす感染症の魔力
著者:浜田 篤郎
出版:洋泉社/価格798円(本体760円)
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