ただしグラフの共用を可能にするためには、いくつかの工夫も必要になる。例えば、同じグラフを用いながらSNS毎に異なる人間関係を構築できる仕組みも大切だ。仕事のSNSで知人である2人が、趣味のSNSにおいても知人であるとは限らないからだ。また情報の公開や取り扱いについて、利用者自身がコントロールできる環境も要る。もちろん非営利組織の中立性確保なども課題になるだろう。

グラフ共用が役立つ場面を見てみよう。例えばあるSNSの利用者が別のSNSに入会する場合、入会処理画面で「あなたの知人と思われる人がこのSNSにも参加しています」と表示する(知人たちは事前にその表示を承認している)。そして利用者は、表示された知人たちと新しいSNSでも関係を結ぶかどうかを選択する。これらの処理の裏側で、SNSはソーシャルグラフへの問い合わせを行っている。つまり利用者は新しいSNSにおいて、人間関係をゼロから構築する必要がないのだ。

このような新しい環境は、新しいサービスを生み出す可能性も秘めている。例えば電子メールのシステムをグラフに基づいて構築すると、スパムメールの入り込む隙が小さくなるかも知れない(メールの情報が知人同士のネットワークだけで伝わっていくため)。このほか人物検索系のサービスが発展する可能性なども指摘されている。

ソーシャルグラフに関する一連の提案は、ネット界における2つのトレンドを示唆している。まず第1に、ネット界のあらゆる情報資産が共用化への道に向かっていること。そして第2に、人間関係という情報資産がネット界においても大きな価値を持ち始めていることだ。

グラフ共用化への取り組みは始まったばかり。エンドユーザーには見えにくい話である上、実現性についても不透明な部分が多い。もしかしたら提案とは異なる形で、グラフの相互利用が進むかもしれない。だがウェブ開発者が「人間関係」という情報資産を重視していることだけは確かだ。今後ウェブ上のサービスにおいて、これまで以上に人間関係を軸にしたサービスが充実する可能性は高い。

もり・ひろし

新語ウォッチャー。1968年、鳥取県出身。電気通信大学を卒業後、CSK総合研究所で商品企画などを担当。1998年からフリーライターに。現在は新語・流行語を専門とした執筆活動を展開中。辞書サイト・新聞・メルマガなどで、新語を紹介する記事を執筆している。NPO法人ユナイテッド・フィーチャー・プレス(ufp)理事。

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