エスプーマはバルセロナ発で世界へ展開

この調理法を発明したのはバルセロナ(スペイン)の郊外にあるレストラン、エル・ブジ(elBulli)だ。同店はミシュランの三つ星店としても世界的に知られている。同店がメニュー開発に費やす手間は尋常ではない。なにしろ年の半分をメニュー開発に充て、残り半年だけ営業しているのだ。同店のシェフであるフェラン・アドリア氏は、五感をフルに刺激する独創的かつ前衛的な調理法を開発することで有名だ。

アドリア氏が発明したエスプーマの手法は、ここ10年ほどで世界の料理界に広がった。フランス料理、イタリア料理、中国料理、日本料理など応用分野は多岐にわたる。またバーやファストフードなど、カジュアルな分野での応用も進んだ。もちろん日本の飲食店もその例外ではない。実際「エルブジ風」をうたったメニューを提供する店もある。

日本では、亜酸化窒素ガスの解禁に伴って普及

もっとも日本で本格的にエスプーマが広がったのは、ここ数年のことだ。本来エスプーマは、混入するガスとして亜酸化窒素(笑気ガス)を用いる。ところがこのガスが、かつて日本では食品添加物として認められていなかった。そこで当初は、二酸化炭素で代用したエスプーマが広がったのだ。この場合、泡の質感は似ているが、味に炭酸独特の酸味などが伴う。

この状況に転機が訪れたのは2005年3月のこと。厚生労働省が食品衛生法に基づく省令を改正し、亜酸化窒素を食品添加物として認めることにしたのだ(ただしホイップクリーム類に限定)。これ以降、本来の手法によるエスプーマが広がることになった。ちなみに亜酸化窒素ボンベの輸送は高圧ガス保安法の規制を受けるため、専門業者が行う必要がある。

古くて新しいトレンド〜料理と科学の融合

実は近年、料理の世界では新調理法の開発が盛んだ。特にアドリア氏が用いるような科学的調理法は、分子調理法(分子美食学)などと呼ばれている。例えば東京にも店舗を持つフランスの三つ星シェフ、ピエール・ガニェール氏は、物理化学者のエルベ・ティス教授(分子調理法の提唱者)との共同研究を実施。液体窒素を用いて素材を瞬間冷却させ「超微細なソルベ(シャーベット)」をつくる試みを行っている。この手法も、世界の料理界で流行中だ。

料理と科学は、一見すると奇異な取り合わせにも思える。しかしながら、料理の本質は食材の「化学変化」にある。それゆえ物理や化学の学者が、料理の歴史に登場することも少なくない。例えば15世紀に圧力調理器を発明したのも、フランスの物理学者だった。革新的な調理法であるエスプーマは、ある意味で料理界の伝統を象徴する存在だとも言えそうだ。

もり・ひろし

新語ウォッチャー。1968年、鳥取県出身。電気通信大学を卒業後、CSK総合研究所で商品企画などを担当。1998年からフリーライターに。現在は新語・流行語を専門とした執筆活動を展開中。辞書サイト・新聞・メルマガなどで、新語を紹介する記事を執筆している。NPO法人ユナイテッド・フィーチャー・プレス(ufp)理事。

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