「高層難民」

(もり・ひろし=新語ウォッチャー)

都市部で増加する高層マンションが、防災上の新たな問題に直面している。地震でエレベーターが停止すると、上階の住人が移動手段を失い「高層難民」になってしまうのだ。彼らはライフラインが復旧するまでの間、生活物資を確保するため地上まで階段で往復するか、備蓄物資を消費しながら上階で生活しなければならない。この対応に乗り出す地方自治体、電機メーカーが現れ始めた。

千葉県北西部地震で、6万4000台のエレベーターが停止

この問題を語る上で象徴的な出来事が2005年にあった。千葉県北西部地震を原因とする、エレベーターへの広範な被害だ。2005年7月23日午後4時35分ごろ、千葉県北西部を震源とする地震が発生。この影響で、首都圏(東京、千葉、埼玉、神奈川)のエレベーター6万4000台(日本エレベータ協会の調べ)が停止し、その後、動作しなくなった。これらを完全復旧させるのに約24時間を要した。

エレベーターが停止したのは、地震時管制装置が作動したため。 この装置は、地震の揺れを感知すると、自動的に最寄階に停止して扉を開ける。地震を受けて、地震時管制装置は正常に動作した。エレベーター6万4000台は、首都圏にある地震時管制装置付きエレベーターの約44%に相当する。

エレベーターを復旧させるには、安全確認のため、保守要員による点検作業が必要となる。一度に多くの個所で装置が作動したため、保守要員が圧倒的に足りなくなる。保守会社への電話もパンク。土曜日で保守要員が少なかったことや、鉄道の麻痺による交通渋滞なども災いした。

エレベーターが止まると、上層階の住民は階段を使うしかない

イラスト:小林商事

エレベーターが止まると、何が困るのだろうか。まず、運悪く地震発生時にエレベーターに乗り合わせた場合、閉じ込め事故に遭う可能性がある。千葉県北西部地震では、このような事故が78件あった。またエレベーターが復旧するまでの間、ビルの利用者や住民は、移動手段が絶たれてしまう。そこが20階であろうが40階であろうが、地上に降りるには階段を使用するしかない。

このことは、特に高層マンションの住民に深刻な問題を引き起こす。都市部の災害対策においては、避難所の不足が問題になっている。そこで高層マンションの住民の中には、避難所が利用できずに自宅にとどまる人が出てくる。そのような人は、水や食料などの支給を受ける度に、階段を使って地上への往復を繰り返さなければならない。日常生活で許容できる階段の段数はおよそ5階分だ。5階より上の階に住む人は、生活に支障を来す可能性がある。

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