「予測市場」

(もり・ひろし=新語ウォッチャー)

「衆議院の年内解散はあるか?」などの疑問について、群衆の英知でこれを予測するシステムがある。予測市場(prediction market)という仕組みだ。株式市場に似たシステムを用いて、予測の対象となる“銘柄”を参加者が売買。その“株価”の高低によって、出来事の実現可能性を探る仕組みだ。欧米では現在、予測市場を娯楽として提供するサイトがあるほか、これを経営上の意志決定に応用する企業も現れている。

浦和レッズを“上場”させ、国際大会の優勝チームを予測する

予測市場の仕組みは、現実の株式市場をまねたものだ。例えば12月に行われるサッカーの国際試合「FIFAクラブワールドカップ2007」の優勝チームを予測する場合、参加チーム──ACミラン、ボカ・ジュニアーズ、浦和レッズ──を“銘柄”に見立てて仮想市場に上場させる。額面は各銘柄とも同額(例えば10ポイント)。「予測終了時には優勝銘柄に80ポイント、他銘柄に0ポイントを払い戻す」などと設定する。

同時に主催者は、参加者に対して仮想通貨を分配しておく。参加者はその仮想通貨を用いて、まず全銘柄のセットを購入。一定の参加者がセットを購入した時点で取引を開始する。後は株式市場と同じ要領で銘柄の売買を行う。ブックメーカーのような「賭け」とは異なる。

実際の売買の様子はこんな感じだ。例えば、現在のACミランの株価が50ポイントだとする。もしあなたが予測する優勝チームがACミランである場合、同銘柄を保有することで30ポイントの差益を期待できる(払い戻しが80ポイントであるため)。そこであなたは、50ポイント以上の価格でACミラン銘柄を注文するだろう。そのように考える人が多ければ、市場原理によりACミランの株価が上昇することになる。結果的に均衡した株価が、出来事(ACミランの優勝)の現実の予測値となる。

夏の参院選における与党惨敗を的中

一見突飛にも思えるこの仕組みが、意外なほど現実を言い当てることもある。静岡大学情報学部の研究室は、今年7月に参院選の予測市場『sangi.in』を運用した。上場銘柄は与党と野党。与党1株と野党1株のセットを121円(121議席に相当)で購入できるようにして、その売買システムを提供した(注:円は仮想通貨)。その結果、運用最終日の株価は、与党が51.0円(議席)で野党が70.5円(議席)だった。現実の選挙結果は与党が47議席で野党が74議席。与党惨敗を高い精度で予測した。

この仕組みの源流は、経済学者ハイエク(1899〜1992)の理論だとされている。ハイエクは「市場の価格決定システムは、各個人に分散した知識を集積する仕組みである」という主張を展開した。これをシステム化したものが市場予測システムということになる。

ちなみに現在ネットでは、ウィキペディアなどを引き合いに出す形で「群衆の英知」という概念が流行している。この概念の源流も「分散する知識を集約する」という意味でハイエクに行き着く。予測市場は「群衆の英知」を実装したシステムの一つだ。

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