「いきなりエイズ」

2007年9月11日

(もり・ひろし=新語ウォッチャー)

エイズ対策の関係者の間で「いきなりエイズ」という言葉を用いる人が増えた。エイズが発症した際に初めて、その患者がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染に気付く状態を言う。2006年の調査ではHIV感染に初めて気付いた人のうち29.9%が、すでにエイズを発症していた。HIVの潜伏期間中に感染に気付かないと、他の人を感染させてしまう可能性がある。早く感染に気づけば、発症を遅らせることもできりようになった。そこでエイズ対策においては、HIV検査の利用者を増やすことが大きな課題となっている。

HIVに感染すると、多くの場合、感染から1〜2週間の時期に風邪に似た症状(発熱や倦怠感)が表れる。ところがそれから5年から10年の間は、症状のないまま時間だけが過ぎる。このため、HIV検査を行わないままでいると、発症して初めて感染に気付くことになる。

2006年の調査結果では、HIV感染に初めて気付いた人のうち29.9%が「いきなりエイズ」の状態にあった。厚生労働省エイズ動向委員会の『平成18年エイズ発生動向年報』は、次のように報告している。2006年、新たに判明したHIV感染者は1358人。このうち既ににエイズを発症していた人は406人いた。つまり、いきなりエイズの人が全体の29.9%存在したのだ。

もっとも、「いきなりエイズ」となる人の割合は、2000年をピークに減少傾向にある。前述の『動向年報』によれば、2000年の“いきなりエイズ率”(本稿では便宜的にこう呼ぶ)は41.6%だったが、2003年は34.4%、2006年は29.9%だった。エイズ検査の利用件数は増加傾向にある。これが感染の早期発見につながった可能性がある。

しかしながら多くの医療関係者は、まだ「いきなりエイズ率は高い」と見ている。これには二つの理由がある。一つはHIVの潜伏期間中に、その人のパートナーなどに感染が広がる可能性があるから。そしてもう一つの理由は、HIVの感染が早期に分かれば、HIVの増殖を抑えることが可能になっているからだ。何種類かの薬を継続的に使用することで、HIVの増殖を抑制し、結果としてエイズの発症を遅らせることもできる。医療界では「HIV感染は、糖尿病と同じような慢性疾患である」との認識がある。

そこでエイズ対策の世界では、感染予防の啓蒙とともに、HIV検査の利用者数を増やすことが大きな課題となっている。

とりわけ問題視されているのが、都市周辺部における検査率の低さだ。関東では、「人口あたりの検査率(保健所で行った検査のみ)」が東京で0.09%、千葉が0.08%、神奈川が0.07%、埼玉が0.05%となっている。実はこれらの地域は、“いきなりエイズ率”が高い地域と一致する。東京の“いきなりエイズ率”が21.9%であるのに対して、千葉が42.0%、神奈川が32.1%、埼玉が48.5%だった(前述の『動向年報』より筆者が算出)。

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