小児医療クライシス 二つの『医師の偏在』が生み出した小児科医不足
子供の輝く命を守るという使命
このように厳しい状況下にあっても、小児科医を志す理由──それは「子供が好きだということ、そして未来ある子供の命を助けることに誇りを感じていること」だと衛藤氏は言う。
小さな命を助けることは、その後の何十年にもわたる人生に影響を及ぼすことであり、同じ命ではあっても、大人の命を助けることとは違った意味合いがある。だからこそ、日本小児科学会では命を救うことだけに満足せず、診療報酬の範囲外である子育て支援などの小児保健の分野にも積極的に取り組み、次代を担う子供を健やかに育てることに注力しているのだという。
例えば、子供を取り巻く環境は日々変化を続け、今や他人を殺傷する場面が描かれたゲームや映画、テレビ番組がごく当たり前に存在する時代になっている。それらは大人にとって何でもないことかもしれないが、幼い子供の心に与える影響は計り知れない。そのため日本小児科学会では、3歳以下の子供にテレビの視聴を控えさせる運動を展開している。また、子供の受動喫煙を減らすキャンペーンや、子供の死因第1位である溺死などの事故を防止するための啓蒙活動などを行っているほか、今後は保育環境の整備に取り組んでいく考えだ。
衛藤氏は「本来であれば子供は親が育てるべき」と前置きをした上で、保育所のあり方についても言及した。
「現在の状況は、親が働いていないと入所できないとか、何時までしか預かれないとか、誰もが安心して利用できる環境とは言い難い。保育所は病気やケガも含めて心身共に安全な場所であるべきですし、6歳ころまでの保育環境は人間の一生を左右するほど重大な期間なので、保育所でも親と連携を取りつつ、教育やしつけをするべきです。そのためには保育士の育成が重要で、現在は2年制の学校が中心ですが、将来的には医療の知識なども学べる4年制コースがあってもよいでしょう」(衛藤氏)。
小児医療は子供の健やかさのためにある。広義に解釈すれば、子供の心身の発達に最適な環境を作ることも、出産・育児がしやすい社会基盤の整備も、医師不足の解消など医療面で子供の健康をサポートすることも、すべて小児医療に当てはまる。
「あらゆる意味で子供をしっかり育てることが良い国づくりにつながる」と衛藤氏は強調する。子供が健やかに育つ社会のために、小児医療の現状を一刻も早く見直す必要があるのではないだろうか。
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