特集:
小児医療クライシス
二つの『医師の偏在』が生み出した小児科医不足
地域格差と診療科における格差によって危ぶまれる子供たちの未来

 医師の偏在が問題化している。へき地における医師不足という地域格差だけでなく、都市部においても診療科における産婦人科や小児科の医師不足も深刻さを増し、閉鎖に追い込まれる病院も出始めた。昨年4月に始まった医師研修制度改革の影響が大きいといわれているが、小児科医の不足はそれだけが原因ではない。
 今回の特集では、小児科医療を取り巻く現状や課題について、日本小児科学会会長であり、東京慈恵会医科大学小児科主任教授の衛藤義勝氏に話を聞いた。

文/林愛子、写真/小林嘉樹
2005年11月21日

研修医制度改革がもたらしたもの

 医師研修制度が改革された昨年4月ごろから、マスコミでは医師不足が何度も取り上げられている。しかし、医師の数そのものは毎年少しずつ増えており、医師が減ったせいで医師不足になっているわけではない。原因は医師の絶対数ではなく、『医師の偏在』にあるようだ。

 『医師の偏在』の一つが、地域格差にある。人口あたりの医師数は北海道や東北地方で少なく東京などの都市部に多いが、この地域格差を加速させたのが「医師研修制度改革」だといわれている。

 これまで研修医は各大学に所属して、そこから各地の病院へ派遣されるのが一般的で、中には医師が極端に少ない無医村のような地域へ出向くケースもあった。ところが医師研修制度改革によって、研修医と病院側のマッチングで研修先が決まるようになり、研修医の希望が中央の有名病院に集中、大学に籍を置いて研修を受ける医師が減った。研修医にとっては給料が高く、早くから“戦力”と見なされるケースが多い有名病院の方が魅力的なのだ。

都市とへき地とでは医師の数に大きな差がある。

国際小児科学会理事、東京慈恵会医科大学小児科主任教授、
医学博士 衛藤義勝氏

 こうした事態に対して、社団法人日本小児科学会会長であり、東京慈恵会医科大学小児科主任教授の衛藤義勝氏は次のように警鐘を鳴らす。

 「研修医が早くから実地経験を積むのは良いことのように映りますが、言い換えれば研修を十分に受けていない医師が第一線に立つ可能性がある、ということです。これまでは大学から派遣してきたので、教授は研修医に対して責任を負う必要がありました。大学でしっかりと教育してから市中病院に送り出してきたし、何かとバックアップもしてきました。ところが今の研修医はそういう“後ろ盾”がありません。不測の事態が起きたときに、どうなるかを考えると、いずれ問題となるのではないかと思います」(衛藤氏)。

 また、中央の有名病院に研修医が集中することで、おのずと大学病院は人手不足になる。地方ほどその傾向が顕著だ。地方大学の医局員は日常の診療に追われることになり、『診療・教育・研究』を三本柱とするはずの大学病院が、その機能を果たせなくなるのではと危惧(きぐ)されている。そうなると、地方大学どころか日本の医学界全体のレベル低下を引き起こしかねない。

 さらに、大学が医局の医師不足を補うために市中病院へ派遣していた医師を引き上げるケースが相次いでいることも、地方の病院の医師不足を加速させている。これらの結果、小児科や産婦人科などでは閉鎖を余儀なくされた病院が出始めた。

全診療科において、小児科が占める医師数は少なくなっている。

 「医師研修制度改革が始まってから、まだ2年目なので、まずは見守っていくべきなのかもしれません。しかし現状は、改革によって患者が受けるメリットは皆無に等しく、廃止を検討すべきとの声もあります。来春に第一期生が研修を終えてから医療の現場にどのような影響が出るのか、非常に不安です」と衛藤氏は語る。

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