特集:
「ボットネット」の正体を探る
命令一発で大量の“ゾンビ”が動く 従来のウイルス対策が効かない

 インターネットにつながっているユーザーのパソコンを操り、迷惑メールを送り付けたり攻撃を仕掛けたり――。これが、現在深刻な問題になっている「ボットネット」である。ボット化したパソコンは国内だけで40万~50万台にのぼるという報告もあり、もはや他人事では済まされない。
そんなボットネットの正体を探ってみた。

文/半沢 智(日経NETWORK)
2005年11月8日

 セキュリティ関連団体のセミナーに参加したときのこと。配られた調査報告書を目にして驚いた。それは「ボットネット実態把握プロジェクト調査結果」というもの。そこには、「国内ですでに40万~ 50万台のパソコンがボット化している」、「新種のボットが1日あたり70種類も出現している」といった、深刻な内容が書かれていたのだ(図1)。

図1 Telecom-ISACとJPCERT/CCが共同で実施した「ボットネット実態把握プロジェクト」でわかったこと

 そういえば最近、セキュリティ関連の取材をしていると、必ず「ボット」や「ボットネット」という言葉が出てくる。ボットって何者なのだろうか。というわけで、この実態調査を実施したTelecom-ISAC(テレコムアイザック ※1)に話を聞きに行った。

※1 Telecom-ISAC
 セキュリティ関連情報などを共有するために設立された通信事業者やプロバイダの団体。「ボットネット実態把握プロジェクト」は、Telecom-ISACと、不正アクセスやセキュリティ対策の情報提供を目的とする団体のJPCERT/CC(コンピュータ緊急対応センター)が共同で実施した。

無数の「ゾンビ」が動き出す

 対応してくれたのは、この実態把握プロジェクトを指揮した企画調整部の小山覚(こやまさとる)副部長。普段の勤務先はNTTコミュニケーションズで、セキュリティに関する業務を担当している。

 最初に、「ボットとは何か」を聞いてみた。すると、「ボットとは、クラッカからの命令を受け、その命令に従って動作するプログラムのことです。パソコンの中に潜み、クラッカの命令を受けると動き出します。ボットに感染したパソコンのこともボットと言ったりします」と説明してくれた。突然ムクムクと起き上がって活動するゾンビのようだ(※2)。

 さらに聞くと、クラッカはこうしたボットを増やして組織化した「ボットネット」を作るという。ボットネットは、IRCサーバー(※3)とそのIRCサーバーに参加するボット群で構成される。クラッカは、IRCサーバーをボットへ命令を伝えるための手段として使い(詳しくは後述)、命令一発で大量のボットを操作するというのだ(図2)。「今、このボットネットが迷惑メールの配信やDoS攻撃(※4)に使われています」(小山副部長)。

※2 ゾンビのようだ
 ボットは「ゾンビ」、ボットネットは「ゾンビ・クラスタ」と呼ばれることがある。

※3 IRCサーバー
 IRC(internet relay chat)は、インターネットでリアルタイムに会話(チャット)をするためのシステム。IRCサーバーは、そのシステムの中核となるサーバー。クラッカは、不正に乗っ取ったパソコンにIRCサーバー・ソフトを忍び込ませてIRCサーバーに仕立てたりする。

※4 DoS攻撃
 DoSは、denial of serviceの略。コンピュータに大量のデータを送りつけるなどして、正常に動作させなくする攻撃。

図2 ボットネットはインターネット経由の大規模な不正行為に利用される 【クリックで拡大】

すでに40万台超がボット化している

 小山副部長には、実態調査の詳細な手法と結果も教えてもらった。

 調査は、国内のプロバイダ、セキュリティ・ベンダー、ウイルス対策ソフト・ベンダーが協力して実施した。インターネットを流れる怪しいパケット(※5)をおとりサーバーに誘導して、おとりサーバーをボットに感染させ、ボットのプログラムを採取した。調査期間は、2005年4月1日~5月12日の42日間である。

 この結果、おとりサーバーがつかまえた不正プログラムのうち、8割がボットのプログラムだったという。確認できたボット・プログラムの数は3万1846個で、3705種類にのぼった。この3705種類のうち、2938種類が新種のボット(※6)だった。新種のボットが毎日約70種類も出現している計算だ。

 また、実態調査に参加したプロバイダから、ボットに感染していると思われるユーザーの割合をヒアリングした結果、いずれのプロバイダからもユーザー全体の2~2.5%がボットに感染しているとの報告が得られたという。国内のブロードバンド回線ユーザーが2000 万人だとすると、40万~50万人が感染していることになる。これが調査報告書にあった「すでに国内で40万~50万人がボットに感染している」という根拠である。

※5 怪しいパケット
 プロバイダがユーザーに割り当てていないアドレスあてのパケットをおとりサーバーに転送した。ボットは、感染するためにランダムなあて先にパケットを送る。そのため、利用されていないアドレスあてのパケットは、ボットの感染パケットの可能性が高い。

※6 新種のボット
 トレンドマイクロのウイルス対策ソフト「ウイルスバスター2005」が検出できなかったボット・プログラム。

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