特集:
災害時、ライフラインを確保するために
東京で巨大地震が起こる前、起こったときに、すべきこととは?

 高層住宅が林立する東京や大阪などの大都心部では、木造家屋が密集する住宅街とは違った防災対策が必要になる。昨今は建物そのものの耐火性や耐震性が向上しているので、被災後もそこで生活を続けられるケースと考えられがちだ。
 しかし、電気やガス、水道といったライフラインの確保は万全なのだろうか。想定されている大都市部での震災に備えて、どのような対策が取られているのかを東京都中央区や、東京ガス、東京電力、東京都水道局の各担当者に聞いた。それらを参考に、巨大地震の際になすべきことを紹介しよう。

文/林愛子、写真/藤井誠、脇田裕美子
2005年9月12日

高層マンションの弱みを把握し、対策を行う――東京都中央区

 行政として、超高層マンションでの防災対策に動き出したのが、東京都中央区だ。この9月4日に佃(つくだ)地区周辺で行われた防災訓練では、高層階からの要援護者搬送や飲料水運搬訓練など、高層住宅を対象とした訓練内容を初めて盛り込んで実施された。

 住宅の約7割を高層マンションが占める同区では、今年6月、被災後のライフライン確保や機能維持のための対策を確立するために、ライフライン事業者やビル管理会社、建設会社、学識経験者らを集めて調査委員会を設置、住宅における防災対策調査に乗り出した。

中央区区民部防災課長 有賀重光氏

「ライフラインが断たれると、水や食料の運搬やトイレのたびに階段を使わなければなりません。これは、高層階で暮らすお年寄りなどには大きな負担となるので、自宅で暮らせる状態であっても避難所生活を選ぶケースが想定されます。避難所はプライバシーの確保が難しく、カゼなどが流行する可能性も否定できません。また、収容人数にも限りがあるので、災害時に自宅で生活できる人はできるだけ自宅に留まるのが望ましいといえます」──こう語るのは、中央区区民部防災課長の有賀重光氏である。

 調査委員会では、高層住宅の5階ごとに水や食料の備蓄倉庫を設置するための指導や、非常用発電機設置の推進、エレベーターの耐震性向上といった事柄をテーマに議論が交わされている。2006年3月までに計5回の委員会を開き、調査報告書をまとめる予定だ。

 「災害時には、FMラジオと区のホームページを使って情報発信をしていく予定です。ホームページは災害時のみトップページに様々な情報が表示される仕組みで、10月1日の実施に向けて準備を進めています。とはいえ、行政による防災対策だけでなく、各家庭や事業所での備えも不可欠です。高層住宅に住んでいても、水と食料、簡易トイレがあれば階段の昇降は最低限で済みますし、風呂に水をためておけば、下水道の復旧次第、トイレが使えるようになりますから、当面の生活は可能だと思います。水や食料の備蓄は通常3日分が目安ですが、高層住宅の場合はそれ以上備えておくとよいでしょう」(有賀氏)。

 また、高層階ほど揺れが激しいことから家具類の転倒防止対策も必須だ。家具の下敷きになってケガをしたり、倒れた食器棚のガラスが飛散し、室内に居られない状態となるケースも考えられるためである。その他、災害時の情報収集手段、家族間の連絡方法、緊急避難場所なども平時に確認しておく重要なことだといえる。

 中央区は八重洲や日本橋といったオフィス街も抱えている。「事業所の場合は、いわゆる『帰宅困難者』への対策も必要になってきます。自社の従業員はもちろんのこと、来客の多い企業や店舗などでは顧客に対しても従業員同様の対応が求められるので、相応の水と食料を備蓄しておく必要があるかもしれません。一事業所単独での対応が難しい場合は、例えばA社が水を提供して、B社が休憩所を開放するなど、近隣事業所間で協力し合うとよいでしょう」(有賀氏)。

 最近、広まりつつあるのが、事業所の帰宅困難者に救出・救助や初期消火といった災害時の応急活動へ参加してもらうという考え方だ。つまり、今後は地域とより密着した協力体制を整える必要が出てくるといえる。中央区では、各家庭や事業所での防災対策の詳細を、パンフレットやホームページなどで紹介している。

東京都中央区が配布しているパンフレット

 「中央区には、住宅街やオフィス街のほか銀座といった大きな繁華街もあるため、帰宅困難者が数多く出ることが推測されます。家庭や事業所以外の場所で被災した場合はどうすればよいのか。駅や地下街など、人の多く集まるところでは慌てると思わぬ事態を引き起こすので、駅員や従業員らの指示に従って落ち着いて行動し、情報収集に努めてください」(有賀氏)。

 東京都では主要道路16路線を「帰宅支援道路」に指定し、沿道のガソリンスタンドやコンビニなどが徒歩による帰宅者に水やトイレなどを提供する仕組みを整えているので、事前に指定道路を確認しておくとよいだろう。

帰宅支援対象道路に設置されている「帰宅支援ステーション」については、東京都総務局のホームページ参照

 「防災対策の基本は“自助”です」と有賀氏は強調する。例えば深夜や早朝、休日時に地震が発生した場合、区役所などの行政機関に職員は不在である可能性が高い。また、区外から通勤する職員も多いため、行政が本格的に対応を開始できるのに時間がかかるケースも考えられる。「まずは各家庭や事業所で、それぞれの安全を確保することが大切です。もちろん自助だけでなく、周辺住民との連携や協力による“共助”も必須です」(有賀氏)。

 こうした協力体制は平時に話し合って役割分担を決めておいてこそ、機能する。今すぐ自宅や会社の防災対策を確認し、周囲との協力のもと、万全の備えを目指さなければならない。

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