新型インフルエンザの脅威には、こう立ち向かえ!

 まん延が懸念される新型インフルエンザに対し、我々は何を準備し、どのように対処するべきか。
 この問題に取り組むNHK・虫明英樹記者のコーディネートのもと、世界保健機関においてSARSや鳥インフルへの国際的な対応を指揮した東北大学大学院の押谷仁教授、東京都危機管理監の島田幸太郎氏、企業代表の富士ゼロックス・木船賢治氏をパネリストに迎え、個人、コミュニティー、企業、行政の各レベルでの有効な対策を考える。
 なお、本記事は、危機管理産業展(RISCON TOKYO)2008において行われたパネルディスカッション「“パンデミック・フル”迫り来る新型インフルエンザの脅威」の内容に基づいて、日経BP社が独自に抜粋、編集したものである。

文/吉田直人、写真/新関雅士
2008年12月5日

爆発的感染を前提に対策を立てよ

虫明 まず押谷さんに、新型インフルエンザという目の前の危機についてどのようにそのリスクを捉え、対策を生み出していけばよいのかお話を伺いたいと思います。

「“パンデミック・フル”迫り来る新型インフルエンザの脅威」パネルディスカッション会場より 「“パンデミック・フル”迫り来る新型インフルエンザの脅威」パネルディスカッション会場より

押谷 新型インフルエンザが発生すると、皆さんの職場のようなところでどんなことが起こるかというと、だいたい30%とか40%の人が感染して発症して会社に出て来られないという事態になります。ただ、それだけでは済まなくて、それ以外の理由で職場に出勤できない人がかなり出る。例えば家族の看護をしなければいけない。病院がいっぱいになってしまうので、かなり重症の人でも家に帰れと言われる可能性があります。そうするとそれを誰かが看ないといけない。

 もう一つは、対策の一環として小学校・幼稚園・保育園というようなところが長期にわたって閉鎖される可能性が非常に高いんです。そうなると、小さな子どもを持っているお母さんたちが職場に出て来られない。あとは、満員電車に乗ると感染リスクというのは当然避けられないわけですから、そういうことを避けるために職場に来ないという人もいると思います。そうなると社会機能を維持することが困難になる可能性があって、皆さんも会社の機能をどうやって維持するかということが、新型インフルエンザの対策で求められることになります。

 これまで日本では、新型インフルエンザ対策というのが非常に遅れてきたんですが、その一つの問題は日本でも新型インフルエンザが起こると、おそらく数千万人の人が感染して発症するだろうと。そういうことは想定されているわけですが、これまでの日本の新型インフルエンザ対策というのは早期対応、日本で数十人、各県で3人とか10人とか出たときにどうするかという、そういう早期対応に重きが置かれていたのです。

 ところが、実際にはこの数千万人の感染が起きたときどうするか‥‥それを考えておかないと、非常に社会が大きく混乱していろんなところで大きな被害が起きる可能性がある。その被害をいかにして抑えられるかということが、新型インフルエンザ対策の最も大事なところなんだとわたしは考えています。

 封じ込めということも日本では強調されてきたのですが、日本ではおそらく封じ込めはできないだろうと考えられます。水際作戦、検疫強化とかで抑えるということも、ウイルスが流入するのを1週間とか2週間とか遅らせるということはできるかもしれませんが、完全な鎖国でもしない限りは日本に必ず入ってきます。日本に入ってくれば、封じ込めはまず無理だとわたしは考えています。

 そうなると、日本でも非常に大きな被害が起こる。人口の20%から40%というような感染が起こる。では企業の事業継続計画、BCPとしてはどういうことを考えなければいけないのかというと、欠勤率‥‥今、国の想定しているガイドラインで20%から40%、最大50%くらいの人が、もしかするとさまざまな理由で会社に出て来られないかもしれない。ただ、20%から40%といっているのは、あくまでも国の全体を平均するとこのくらいになるということなので、例えば皆さんの職場で誰か感染して、感染しているにもかかわらず職場に出て来て、咳をして一日中働いているということになると、その職場ではもっと高い罹患(りかん)率で発症してくる可能性があります。そういうことも想定しておかなければいけないし、発症した人はなるべく職場に来ないような措置も必要になってきます。

 日本の新型インフルエンザの患者の発生予測ということで国が出している数値は、患者数が人口の25%で3200万人、入院患者が50万人から200万人、死者が17万人から64万人。つまり、中程度の新型インフルエンザで、首都圏の直下型地震の15倍以上の人が死ぬということです。もし、非常に重症度が高いウイルスが出現した場合には、首都圏直下型地震の50倍以上の人が死ぬということなので、これはやはり、そういう最悪の事態も想定して対策をしていくことが必要なんだというふうに思います。

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