拡散するアスベスト被害 将来に残す二つの禍根

だから,代替繊維も危ない

 アスベストが悪性疾患を引き起こす理由は主に二つある。一つは,鼻や口から吸い込むと,気道や気管支にとどまらずに肺の奥深く,空気と血液との間で酸素や二酸化炭素のガス交換を行う肺胞にまで到達する点。当然,人間には異物を唾液と一緒に体外に排出するなど,さまざまな防御機構が働くが,ことアスベストに関してはこれが効かない。それは,アスベストが細くて小さいからだ (図5)。

図5 アスベストの電顕写真
(a)蛇紋岩系のクリソタイルと,(b)角閃石系のアモサイト。繊維径は,前者が0.03~10μm,後者が0.1~10μm。(産業医学総合研究所)

 もう一つの理由は,アスベストが体内で溶解せずに滞留する点。通常,肺胞外のpHは弱アルカリ性の7.4,肺胞内でマクロファージと呼ぶ貪食細胞が分泌する酵素のpHは強酸性の4.8。つまり,この酸に耐える繊維は化学的に溶けずに,体内にとどまる可能性を持つ。実際,クロシドライトなどは実験で溶けないことが証明されている。

 要は,アスベストが危険とされていた根拠は「細い」「溶けない」こと。アスベストの化学的組成が問題だったわけではない。逆に言えば,代替繊維の中でも「細い」「溶けない」という危険な条件を満たせば,アスベストと同様の発がん性のリスクを負うことになるのだ。ちなみに,呼吸により肺胞に到達する恐れのある繊維の目安は,直径3μm以下で,長さは200μm以上。ただし,直径3μm以上の太い繊維でも,細く割れると(へき開性があると)危険。とりわけ直径0.25μm以下,長さ20μm以上の繊維は,発がん性が強いとされる。

参考文献
1)工藤,「石綿に係わる労働衛生管理上の知見について」,『働く人の安全と健康』,Vol.6,No.6,pp.23-29,2005年.
2)厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課,「『石綿障害予防規則』の解説」,同上,Vol.6,No.6,pp.17-22,2005年.
3)高田ほか,「長繊維クリソタイル改質材料(繊維状シリカゲル,焼成フォーステライト)のラット気管内単回投与による呼吸器影響 1.気管支肺胞洗浄液分析」,『産業衛生学雑誌』,第47巻臨時増刊号,p.576,日本産業衛生学会,2005年.
4)戸谷ほか,「長繊維クリソタイル改質材料(繊維状シリカゲル,焼成フォーステライト)のラット気管内単回投与による呼吸器影響 2.病理組織学的検査」,同上,第47巻臨時増刊号,p.577,日本産業衛生学会,2005年.
5)荻原,「脱アスベストに見る代替材料の落とし穴」,『日経ニューマテリアル』,1992年3月9日号,pp.12-23.
6)森本,「人造鉱物繊維の発がん性について─国際がん研究機関(IARC)の報告─」,『産業医学ジャーナル』,Vol.3,No.3,2002年.
7)中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター,『平成15年度 石綿代替品の有害性に係る文献調査報告書』,2004年.


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