特集:
法令遵守がコンプライアンスではない
~ パロマ事件の教訓
シンポジウム 21世紀におけるグローバルな安全保障
「テロリズムと危機管理 ~ 9.11以降の世界」より

パロマ工業製のガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故が過去20年間で28件発生し、うち21人が亡くなったという事実が発覚し、パロマの企業責任とコンプライアンスの問題が大きな話題となった。
元東京地検検事で、桐蔭横浜大学法科大学院教授・同大コンプライアンス研究センター長の郷原信郎氏は「フルセット・コンプライアンス論」という日本初の本格的なコンプライアンスの研究・教育に取り組んでおり、企業のコンプライアンスに対する考え方と対応の問題を指摘する。

郷原 信郎氏/桐蔭横浜大学法科大学院教授・同大コンプライアンス研究センター長
文/吉村 克己、写真/厚川千恵子
2006年10月10日

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郷原 信郎氏

 雪印乳業、三菱自動車、そしてパロマ工業‥‥。不祥事が起きるたびに、企業のコンプライアンスの重要性が叫ばれ、先進的な企業では社内のコンプライアンス体制を強化し、コンプライアンス教育を充実させている。

 コンプライアンスは日本語では「法令遵守」と訳されているが、桐蔭横浜大学法科大学院教授・同大コンプライアンス研究センター長の郷原信郎氏は法令を守ることだけがコンプライアンスではないと指摘する。

 「コンプライアンスはもともと『充足する』『調和する』という意味であり、工学的には『物体のしなやかさ』を示す言葉です。すなわち、コンプライアンスとは組織に向けられた社会的な要請に応え、しなやか、かつ鋭敏に反応しながら、企業の目的を実現していくことです。したがって法令規則をそのまま守ることがコンプライアンスではありません」(以下、発言は郷原氏)。

 郷原氏のコンプライアンスに対する考え方を理解するには、まず日本における法令や司法の在り方を知る必要がある。

 郷原氏は日本においては「法令と社会の実態が乖離しやすい問題がある」と語る。その理由として、日本の法律は海外から輸入されたものであり、欧米のように市民社会によって自発的に法令が形成されたわけではないことを挙げる。日本人にとって法律は「天から降ってきた」ため、市民にとって法令や司法はなじみが薄く、「訴訟沙汰」などといったネガティブな表現があるのだと郷原氏は語る。

 郷原氏は大学卒業後、検事として任官し、広島地検特別刑事部長や法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事、東京地検検事を歴任後、現職に転じた。長崎地検時代には公共工事をめぐる腐敗構造を背景にした、政権与党の地方組織の集金構造にメスを入れた、全国的にも注目された自民党長崎県連事件の捜査を指揮するなど、法律の解釈・運用と企業の社会的責任の問題については身を持って体験し、考えてきた。

 いわば郷原氏のコンプライアンス論は机上の空論ではなく、社会の実態を重視し、社会の利益に資するコンプライアンス実践論だといえる。

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