特集:
守りを固めて攻めに打って出る 個人情報保護法時代の顧客データ活用提案

 個人情報保護法施行から4 カ月が経過した。 ユーザー企業は、個人情報を外部に漏洩させない仕組み作りを急ぐ一方、顧客データの活用に今まで以上に意欲的になっている。顧客の氏名や住所などを流出させずに、どうやって営業活動を効率化し、顧客サービスの向上に結び付けるか。
この矛盾した状況を解決することが、ソリューションプロバイダの知恵の見せどころ。NTT ソフトウェアのように新しいアイデアを用いたソリューションも出てきた。セキュリティ対策やASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)など、持てる技術やノウハウを総動員したシステム提案が始まった。

文/中井 奨(日経ソリューションビジネス)
2005年8月4日

●編集長からのメッセージ

 『日経ソリューションビジネス』は、“顧客への最適提案でIT市場を攻略する”をキャッチコピーに、ソリューション提案のために役立つ情報を提供している月2回刊の情報誌です。システムインテグレータをはじめとするITサービス企業の営業・SEの皆様が中核読者です。
 最適なハード、ソフト、サービスを組み合わせて、ユーザー企業にソリューションを提案するためには、市場と商品の分析が不可欠。それを読者にお届けすることこそ、日経ソリューションビジネスの使命です。2005年は、情報漏洩対策や認証システムなど情報セキュリティソリューションに関する情報を強化しています。
 Webサイト『ITサービスLeaders』でも、提案に役立つ情報を提供していますので、ぜひご覧ください。
(桔梗原富夫/日経ソリューションビジネス編集長)

セキュリティを保ちつつ顧客データを生かす新たな知恵が求められている

「お客様には、このような投資信託の新商品はいかがでしょうか」。住友信託銀行では外回りの営業担当者が、PDA(携帯情報端末)で過去の取引や資産などの顧客データを参照しながら、個人顧客のニーズに合わせて商品を勧めていく。顧客データを即座に活用できることは外勤の営業活動で強力な“武器”となっている。

 住友信託銀行は個人情報保護法施行を目前に控えた2005 年2 月から、国内全店舗の52 営業店で、外勤用のPDA を約700 台も導入した。営業担当者は社内のCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)システムから、訪問予定の顧客の氏名、住所、生年月日、投資状況などのデータをPDA にダウンロード。営業担当者は、顧客データを元にして顧客の属性や要望に応じたコンサルティングや提案を行っている(図1)。

図1 住友信託銀行が今年2月から導入している外勤活動用PDA

営業担当者が顧客データを持ち出して活用できる一方、セキュリティ対策を徹底している

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 同行では顧客データを持ち出すことは原則禁止されている。仮に持ち出す場合でも、管理者の厳正な許可が必要だった。このため、営業担当者は外出先から電話で顧客データを、営業店に問い合わせて確認しなければならないこともたびたびあった。

 「銀行にとって顧客データ自体が商売の柱だ」。リテール企画推進部の岩田光宏主任調査役は、顧客データの重要性をこう語る。重要な顧客データを外部に漏洩することは絶対にあってはならない。その一方で、顧客データをうまく営業活動に生かさなければ、顧客サービス向上や売り上げの拡大は難しい。この矛盾を解決するため、同行はPDA を採用するに当たり、情報漏洩を防ぐためのセキュリティ対策を徹底した。

 このシステムの開発はイーシステムが手掛けた。まずPDA 使用のログインに指紋認証を採用。持ち主の営業担当者の指紋以外でPDAのシステムを起動させることができない。さらにPDA には記憶媒体を搭載せず、メモリー上にダウンロードされた顧客データは、一定の条件で自動的に消去される仕組み。データの暗号化なども採用した。「PDA でデータを持ち出しても外部に漏れないように今考えられる範囲での最大限のセキュリティ対策を行っている。PDA の活用によって、営業担当者の活動の幅も広がった」と岩田主任調査役は話す。同行では今後、配置するPDA の増設も検討中だ。

商談のパターンは3つ

 CRM に詳しいIDC ジャパンの梶田久司シニアマーケットアナリストは「ユーザー企業は従来のコスト削減から売り上げを増やすためのデータ活用にシフトしており、CRM 市場のすそ野が広がっている」と話す。ユーザー企業は、顧客データの漏洩防止対策に神経を尖らせているが、一方で顧客データをビジネスで活用したいとする意欲は旺盛になっている。この相反する状況を解決してシステム提案に結び付けないと、ユーザー企業のIT 投資意欲は後退してしまう(図2)。

図2 顧客データを安心して活用するためのソリューションが求められている

 具体的な商談のパターンは3 つに分かれる。1 つ目は自社パッケージなどと外部のセキュリティ対策製品などを組み合わせた提案、2 つ目は、最初からセキュリティ対策を備えているASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスなどを活用した提案、そして3つ目は新しいアイデアを盛り込むなど個人の名前や住所などのデータを一切使わない新しいCRM システムの提案である。

まずはセキュリティの提案から

 大塚商会の場合、パッケージ製品の販売でもセキュリティ対策を前面に押し出している。ERP(統合基幹業務システム)パッケージ「SMILEie」のセミナーを東京や名古屋、大阪の3 大都市で開催したとき通常と趣向を変えた。従来はパッケージの機能や導入効果をアピールしているが、これをセキュリティを強調する内容にした。講師も営業担当者ではなくSMILEieの開発元であるOSK(東京都江東区、原田要市社長)のSE が担当。ハッカーがハッキングソフトを使い、顧客データを盗み見る様子を再現し、セキュリティ対策の必要性を訴えた。

 セミナー後の参加者の反応はすこぶる良かった。通常、セミナーで獲得できる見込み客は参加者のせいぜい1 割だが、この時は4 割にも達した。「以前は、CRM やERPのシステムを売ることがメインだったが、今ではセキュリティを同じくらいの重要度で提案している。セキュリティ対策がしっかりできていないと、パッケージを入れてもデータを活用できないからだ」と、業種大手SI 統括グループの瀧場誠グループ長は話す。

 コンタクトセンターをターゲットにした提案に力を入れているのがNEC。新規案件に加え、90 年代に構築したユーザー企業が更新時期を迎えて、商談が増えてきたからだ。そこでNEC は、まず個人情報保護法に対応したセキュリティ対策を提案。例えば、通信販売会社に対しては、顧客や受注のデータが保存されているデータベースへの不正アクセスや内部のオペレータの不正接続、顧客データの持ち出しなど、情報漏洩のリスクをあらかじめ想定して示している。

 その上で、クライアントパソコンの操作ログの収集・追跡、外部デバイスの利用制限、外部から持ち込んだノートパソコンの不正接続制限などのセキュリティ対策製品やセキュリティ教育サービスなどを提案している。

 NEC ・UNIVERGE ソリューション推進本部の早瀬俊一CRM ソリューション営業部長は、「コンタクトセンターでもCRM の提案でもまずはセキュリティ対策を強調している。個人情報保護法が全面的に施行されてから、ユーザー企業がセキュリティ対策について深く勉強しており、意識も非常に高くなっている。商談ではセキュリティ対策がキーポイントになると言っても過言ではない」と話す。

 米シーベル製を中心としたCRMソフトの導入コンサルティングに実績を持つイーシステムも、顧客データを守るソリューションを提供している。データを安心して活用できるようにするため、イーシステムが開発したログ分析ツールの「E-SYSTEM E-TRACKER」とハミングヘッズ(東京都中央区、小林亮一社長)の情報漏洩防止対策ソフト「セキュリティプラットフォーム」を連携させた。同ソリューションは、社内のパソコンの操作ログの記録と分析、印刷や外部デバイスへの保存の禁止などを行うもの。情報漏洩を未然に防止できることを訴求する。

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