特集:
ソフトウエア取引の“売上”を減らす
「新会計ルール」の衝撃(前編)

文/中山秀夫(日経SYSTEMS)
2006年6月26日

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 納品せず受け取った代金は「負債」扱い
 フェーズごとの成果物を決めれば売上に


 プロジェクト・マネージャであるあなたは,請負契約のシステム開発プロジェクトの進ちょく遅れで頭を悩ませていた。ユーザー企業の準備不足が最大の原因であり,その点に関しては負い目はなかった。急げと言ってくるのは上司である。「今期の売上予算を達成するためにも,早くシステムを納品して売上計上しろ!」。顔を合わせるたびに,こう言われた。

 しかしどれだけ急いでも,今期中の納品は無理。進ちょくは,いまだ7割というところだった。

 来期の納品になるとしても,7割方できているのだから,その分の金額だけでも今期中に請求できないだろうか。こう思い,ユーザー企業に相談したところ,すんなりOKが出た。聞けば「当社としても,今期の予算に余裕があるので,出来上がった分だけでも支払いを済ませておきたい」ということらしい。

 金額は,代金の7割ということで合意を得た。開発途中のソフトウエアをCD-ROMに収めて形式的に納品し,ユーザー企業に検収してもらったうえで請求書を発行し,ただちに売上計上した。これによって部門の予算を達成でき,上司に評価された。

 このように,ソフトウエアやシステムが開発途中の段階でITベンダーがユーザー企業に請求し,売上計上することがある。売上の「分割計上」と呼ばれるものだ。

 ユーザー企業とITベンダーが合意しているかどうかは関係なく,これは完成基準の考え方から外れている。分割計上であっても,あくまで,その対象となる成果物を完成させてユーザー企業に検収してもらうことが,売上計上の条件である。仮に開発途中の段階で,ユーザー企業から金銭の支払いを受けたとしても,売上ではなく「前受金」として負債計上しなければならない。前受金は将来的に提供する商品・サービスの代金の一部を前もって受け取ったものなので,売上にも利益にもまったく反映されない。

 今回の“改正”によって,分割計上の根拠となった成果物が,あらかじめ合意され,一定の機能を持つものだったかどうか,従来よりも厳しくチェックされるようになる。もちろん現実的に,監査に当たる公認会計士が細かくチェックするには限界があるかもしれないが,成果物が完成していないうちに部分的にでも売上計上するのは,完成基準の考え方に外れることを認識しておくべきだ。

 特に,何も納品せず検収書もなければ,売上としては認められない(図6)。「そもそも何も納品しないのに代金を支払ってもらえるわけがない」と思うかもしれないが,年度予算を強く意識する官公庁などとの取引ではあり得る話である。

図6 成果物のない売上計上
完成基準を採用しているにもかかわらず,請負契約のプロジェクトで成果物を納品せず売上計上することはできない。今後はこの点について,より一層厳しくチェックされる
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要件定義書や設計書も成果物に

 “改正”されたとは言え,ソフトウエアやシステムなどの成果物が完成するまで売上をまったく計上できないわけではない。そうだとすると,業務分析や要件定義から基本設計,詳細設計,テストのフェーズまで売上計上できない。

 実は,何をもって成果物とするか,には解釈の余地がある。ソフトウエアやシステムなどの最終成果物だけが成果物とは限らない。

 今回の“改正”でも,最終的なシステムの完成前であっても,「ユーザーが使用し得る一定のプログラムや設計書等の関連文書を成果物と見なせる」という判断を示している。つまり,あらかじめユーザー企業との契約書において,要件定義書や設計書,ソフトウエアの特定部分を成果物として代金を取り決めておけば,それを納品して検収してもらった時点で売上計上できるというわけだ(図7)。

図7 適切な分割計上のやり方の例
完成基準で売上を分割計上するには,要件定義書や基本設計書などの成果物をあらかじめ取り決めておき,それを納品するたびに計上するやり方がある

 逆に契約段階で取り決めておかなければ,分割して売上計上するのは難しい。ITベンダーはユーザー企業と契約を結ぶときに,成果物の定義に今まで以上に留意する必要がある。

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