【本当にあった怖い話】信頼は一瞬にして崩れる(第2回)

急成長ベンチャーが過剰受注で信用失墜

ふうどりーむずの謝罪記者会見の様子を伝える1月7日の北海道新聞の記事(上)と1月3日、北海道新聞に掲載された謝罪広告(下)
今年の1月6日、札幌市内で冷凍食品メーカー、ふうどりーむず(北海道小樽市)の謝罪記者会見が開かれた。
同社は昨年末、おせちセットを約1万5000セット受注した。だが、悪天候にたたられ、約3000セットを配達予定日の12月30日に配達できなかったのだ。その後も配達を続けたが、賞味期限の1月2日時点で約2000セットが残り、これらの配達を断念した。
作業着に長靴姿で単身、会見に臨んだ猿渡肇社長が席に着くや、質問とフラッシュが一斉に浴びせかけられる。

ふうどりーむずの冷凍すし。冷凍前の処理の工夫と高速冷凍の技術で実現した。生協やスーパーで販売されている

2年前、小泉首相が視察に訪れたときの写真。冷凍すしを食べて「冷凍とは思えない。おいしいね」と発言したという。右は猿渡社長
写真/石田理恵
「悪夢のようだった」と猿渡社長は振り返る。
「要するに記者たちは、『お前、ちょっと有名になったからって、いい気になっていたんだろう。それでこのザマだ』と言いたかったのでしょう。そして、まさにその通りだったんです」
ふうどりーむずは、6年前に独自の冷凍技術で「冷凍すし」を開発した。これが注目を集め、2年前には小泉純一郎首相も視察、試食に訪れた。これで一気に知名度を上げ、地元では「期待のベンチャー」と目されるようになった。
おせちの販売は3年前から始めていた。カニやウニなど北海道名産の海産物を盛り込んだのが好評で、一昨年末も3500セット限定で注文を取ったところ、1万セットの申し込みがあったという。
これを受け、昨年末は1万セットを用意することにした。理屈から言えば、一昨年並みの注文があれば十分にさばける。でも念のために、というわけで、「軽い気持ちから新たにテレビコマーシャルを打つことにした」(猿渡社長)。これが効いた。
鳴りやまない電話
怒号を浴び続ける

写真/中田裕史
12月に入ると毎日1000件以上の注文が舞い込むようになった。切っては鳴り続ける電話を取るとしばしば、「なんで、こんなにつながらないんだ!」と怒鳴られた。
12月3日には受注が1万セットに達したが、いら立っているお客に「売り切れた」と説明しても、なかなか納得してもらえない。
もっと厄介なのがファクスでの注文だった。お客はファクスを送信した時点で、注文が成立したと思い込んでしまう。断りの電話を掛けようにも、電話が殺到していて掛けられない。個人の携帯電話まで動員したが、焼け石に水だった。

12月初旬、注文のファクスが毎日、山のように舞い込んだ
写真/石田理恵
注文の締切日は15日。まだ10日以上あった。
「一人ひとりに説明して断っていたら、らちが明かない」
そこで猿渡社長は、マスコミに働き掛けた。12月7日、地元紙に「ふうどりーむずのおせちに注文が殺到し、予定より早く注文を打ち切った」との記事が載る。並行して「注文打ち切り」を伝える新聞広告やテレビコマーシャルも出した。
これで注文はピタリと止んだ。だが、既にふうどりーむずは、予定の1.5倍、1万5000セットの注文を受けてしまっていたのである。
工場は24時間体制で生産に入った。現場のスタッフは臨時に増員できたが、現場管理者は急には増やせない。皆、徹夜仕事の合間に仮眠を取りながら連日、働き続けた。

昨年1月、本社と工場を移転、拡張した。
今年は、宅配の新規事業を計画していた

昨年の本社移転に合わせて社名も以前の「海鱗丸ビール」から「ふうどりーむず」に変更していた
写真/石田理恵
詰め合わせは、石狩市内に作業場を借りて進めることにした。広いところで効率的にやろうと考えたのだが、これが裏目に出る。12月28日から29日、小樽市周辺は大雪に見舞われた。交通が滞って料理などが届かず、詰め合わせの作業は遅々として進まない。
しかも連日の徹夜作業で、猿渡社長以下、社員たちの疲労は極限に達していた。
そして迎えた30日未明。
「もうダメだ。間に合わない」
朝焼けの中で猿渡社長は、ようやくこの事実を受け入れた。この日は配達予定日。本来ならば、すべての作業を終えて打ち上げの相談でもしているべき時なのに、3000セット分もの料理が詰め合わせされずに放置されている。
社員たちは朦朧(もうろう)として、作業する手を止めていた。
覚悟を決めて、配達できなくなったお客に連絡を始めた。だが、3000人に電話するには相当の時間が掛かる。猿渡社長は再びマスコミに働き掛け、おせち遅配のニュースを地元に流した。
すると本社に、再び電話が殺到した。「なんで作れもしないのに受注した」「ダメなら、もっと早く言え」。社員は対応に追われた。

「おせち遅配」の経緯を振り返るふうどりーむずの猿渡社長。
事件を経て体重が4kg減った
写真/石田理恵
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