【本当にあった怖い話】信頼は一瞬にして崩れる(第1回)


「安くて美味しい肉」が「偽装肉」と罵(ののし)られる

フォルクス(現社名=どん/埼玉県鶴ヶ島市)


 2005年11月15日、公正取引委員会は、ステーキチェーン大手フォルクス(当時。現社名=どん)に対し、景品表示法違反で排除命令を出した。いわゆる「成型肉」を使いながらメニューに表示せず、「ステーキ」として販売していたことが問題とされた。

 翌16日、各紙が一斉に「フォルクスは内臓肉と脂肪を混ぜ合わせて作った『成型肉』を使っていた」などと報道する。

 これに消費者は敏感に反応した。店舗売上は瞬く間に2割近くもダウン。本社には「ニセモノの肉を食わせて儲けていたのか」「金返せ」といったクレームの電話が殺到した。

 「成型肉は決して粗悪品ではないのに……」

 フォルクスの経営陣は、若干の恨めしさを感じている。

写真/中田 裕史

「ビフテキ」を庶民のものにしたい

顧客満足をうたう、どんの経営理念と行動指針
フォルクスの弱さは危機を支えてくれるファンの不在にあった
写真/高橋久雄

 「成型肉ステーキ」は、長年、フォルクスの看板商品だった。1970年の創業当初、「美味しいステーキを格安でお客様に提供する手はないか」と考え、そして目を付けたのが「ハラミ」と呼ばれる牛の横隔膜の肉。焼肉店などでは人気がある部位だが、関税が低く、仕入れコストが安い。ただ厚みが均一でないので、細かくカットして牛脂などでつなぎ、一枚肉らしい形に仕上げた。

 「『内臓肉』と言うと聞こえが悪いですが、本当は、手間ひま掛けて作った美味しい肉なんです。なのに、あたかも品質が悪いかのように受け止められてしまった」

 そう悔やむのは、どん(埼玉県鶴ヶ島市、籾山昌也社長)の南慎一郎常務だ。どんは事件前の昨春、フォルクスを買収、どん出身の南氏は5月末から常務に就任していた。

昨年5月末にフォルクスの常務に就任した南慎一郎氏
就任直後から、公取のヒアリングは始まっていたがその事実を知ったのは10月末のことだった
写真/高橋久雄

 南常務には、「公取の動きをつかむのが遅かった」という悔いもある。

 フォルクスは商品部関係者を中心に、昨年6月から10月上旬にかけて4回も公取からヒアリングを受けている。だが、新しい経営陣に報告はなかった。

 南常務が公取の動きを知るのは、10月下旬に公取から「排除命令を出すつもりだ」と通告された後だった。

 「現場は『軽い処分で済むだろう。大きな騒ぎにはならない』と思っていたようだ」(南常務)

業界の常識は世間の非常識

 成型肉のように何らかの加工を施した肉は外食業界で広く使われてきたが、メニューで表示している外食チェーンはほとんどなかった。そもそも飲食店のメニューで加工肉をどう表示すべきかについての基準も存在せず、「明確なルールがない以上、厳しく罰せられると思わなかった」(南常務)のだ。


上のメニューが成型肉を使った「ひとくちビーフステーキ」
「ステーキ」と表示することが問題とされた
下の「グランドビーフ」は、挽き肉だと分かるので問題ない
写真/高橋久雄

 ただ「公取の指摘は大筋においてもっともだ」と、南常務は考えている。

 「我々は『美味しいからいい、同業他社も使っている』と思っていた。けれど、お客さんのほとんどは成型肉を使っているなんて知らない。だから成型肉だと知れば、やっぱり驚いたり、ガッカリしたりする。長年の業界の常識と、今の消費者の感覚にギャップが生じていたことは、率直に反省しなくてはいけない」

 客足の戻りは鈍い。前年同月比10%を超す売り上げの落ち込みは、今年1月まで続き、4月の既存店売上高も前年同月比5%程度のマイナス。06年2月期の経常利益は、当初4000万円の黒字を見込んでいたが、4億円以上の赤字に終わった。

 「正直、ここまで影響が長引くとは思っていなかった」と、南常務は打ち明ける。

 「フォルクスのブランド力が弱っていたのかもしれない。フォルクスの熱烈なファンであれば、事件があっても『また行こう!』と思ってくれたはず。そんなファンがたくさんいれば、売り上げの回復も早かったはずなのですが」

 2006年3月、どんはフォルクスと合併した。事件の影響を払拭するため、現在、「フォルクス」を「ステーキのどん」や「しゃぶしゃぶどん亭」といった業態に転換する動きを急ピッチで進めている。

「成型肉」をめぐるフォルクスの動き

どん
本社………埼玉県鶴ヶ島市
売上高……151億9700万円(2006年2月期)
設立………1970年7月
事業内容…ステーキ店などの展開

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