特集:
【本当にあった怖い話】信頼は一瞬にして崩れる(第1回)
取材・文/宇賀神 宰司、小野 田鶴(日経ベンチャー)、松田 勇治(フリーランスライター)
2006年5月30日
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新たな確認体制の実現性に疑問
不用意な一言で信頼と顧客を失う

写真/北山宏一
「制限速度が時速60キロの道を67、68キロで走っても、まあいいかと思っていた」
2006年1月27日、完了検査後の改造工事が発覚した東横インの西田憲正社長の弁である。「それほど極悪非道なことをしたわけではない」と主張したかったのかもしれないが、多くの人たちはこの発言を「違法を違法とも思わない企業体質」と受け止めた。
「東横イン事件についてはあの一言がすべて。長年、築き上げてきたブランドイメージが音を立てて崩れた」と、船井総合研究所の経営コンサルタントである大野潔氏は指摘する。
違法行為で非難を浴び、さらに社長の失言が火に油を注ぐ。こうして会社は大切な顧客との信頼の絆(きずな)を失った。
4割が「もう行かない」


インターネット調査会社、インフォプラントに依頼して「事件前後の東横インのイメージ変化」を本誌が2006年4月上旬に調べた。調査対象は05年に同ホテルを2回以上利用した100人
昨年、東横インを2回以上利用したことのある100人を対象に実施したアンケートによれば、約3分の2の64人が事件で東横インのイメージが悪化したと答え、39人が今後は利用したくないと答えている。「会見で開き直っていた態度が印象を悪くした」「接客はいいのに残念」といった意見が多い。
『社長をだせ!』(宝島社)の著者でCSアドバイザーの川田茂雄氏は「普段からファン作りをしてリピーターを作っておけば、少々の問題があっても大丈夫。しかし、西田社長は記者会見で、それを超える衝撃を与えてしまった」と分析する。
東横インは「駅前旅館のようなビジネスホテル」を目指し、1986年に西田社長が起業した。ホテル運営を女性スタッフに任せ、清潔で細やかなサービスを展開し、01年7月には品質保証の国際規格であるISO9002の認証も取得している。全室高速インターネット接続無料などIT化への取り組みも早かった。さらに内装や電装、客室販売など建設以外のすべての業務を自社、グループ会社で行うことでコスト効率を追求、シングル6000円、ツイン8000円前後と値ごろ感のある価格設定を実現した。このおかげで全国に120以上ある同社のホテルの平均稼働率は80%を超える高さだったという。
その一方で、完了検査後の不正改造が常態化していた。建築基準法やハートビル法、条例で定められた身体障害者用の設備や駐車場をいったん設置しながら、業務効率化とサービス向上を理由に客室などを作り替えていたのだ。

東横インでは身障者用の駐車場を開業後になくすなど、建築基準法やハートビル法に違反する行為を繰り返していた
写真/北山宏一
川田氏は「顧客の信頼を裏切る事故は、必ず経営者が目先の利益に走っているときに起こるもの」と指摘する。利益と法令順守をてんびんにかけ始めるときが危険信号、というわけだ。
再度の謝罪会見で、西田社長は手のひらを返したように神妙な顔で深々頭を下げお詫びをした。しかし、最初の会見でもすでに自分の非を認め、全館調査しすべて法令、条例に合うよう改築することを表明していたのである。そのときに言い訳せず謝罪していれば、ここまで悪評が広がることはなかっただろう。
マンネリ、甘え、おごり
それができなかったことこそが「経営者の気の緩み、マンネリ、甘え、おごり」だと大野氏は指摘する。西田社長は最初の会見中、「昔はそんな法令はなかった」「今まで条例に反していても、役所に陳情すればなんとかなった」と繰り返した。しかも、構造計算書偽造事件が取りざたされ、多くの人たちが企業の法令順守に対する姿勢に神経をとがらせていた最中にである。

2月6日の記者会見で下を向き神妙に質問に答える西田憲正社長
写真/日本経済新聞社
こうした危険を防ぐため、多くの企業は記者会見の前に想定問答集を作り、広報担当者や専門家などがそれを事前にチェックする。それが確実にできていれば、あのような発言が飛び出すことはなかったはずだ。
これに懲りたのか、東横インは一転、コメントを極度に控えるようになった。事件の影響についても「今は違反の是正工事が最優先。すべてが終わる7月初頭までは発言を差し控えたい」という。
本社………東京都大田区
売上高……257億4271万円(2005年3月期)
設立………1986年
事業内容…ビジネスホテルの運営・管理
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