特集:
アスベスト問題と向き合う(前編)
社会を揺るがす“負の遺産”
文/斎藤 正一、吉岡 陽、田中 太郎(日経エコロジー)、永尾 俊彦(ジャーナリスト)
2006年4月21日
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アスベスト新法、関連4法改正法が施行へ
「過去のリスク」と向き合う時代に

アスベスト新法と、関連4法改正法の年度内施行が確実になった。
全事業所が負の遺産に対して一定金額を支払うことになった。

アスベスト(石綿)による健康被害者救済のための新法(アスベスト新法)と、大気汚染防止法など関連4法の改正法が衆議院で成立し、今年度中に施行される見通しになった。
自民・公明両党の国会議員で作る「与党アスベスト対策プロジェクトチーム」の佐田玄一郎座長は、「アスベストで被害を受けたすべての人をできるだけ早く救済しようと取り組んできた。今後は中小・零細企業への無利子貸し付けなどの枠組みを作っていきたい」と話す。
昨年6月末、大手機械メーカー、クボタの発表に端を発した「クボタショック」によって、アスベストは新たな公害としてとらえられ大きな社会問題になった。それから約7カ月を経て、ようやく国が具体的な救済策に向けて動き出したといえる。
当のクボタは昨年12月25日に記者会見を開き、幡掛大輔社長が、「今後、詳細を詰めるが、どこから見ても(補償額にクボタの)社内外で差が付かないという気持ちで取り組ませていただきたい」と説明。問題の発端となった旧神崎工場の周辺住民らに社員並みの補償をする考えを明らかにした。
細谷祥久・クボタ秘書広報部広報室長は、その理由について、「6月末から担当部長が被害に遭われた住民の方々と話し合いを続けてきた。その報告を社長が聞く中で、さらに一歩踏み込んで対処する仕組みが必要と判断した」と話す。
評価受けるクボタの対応
下の表で示したように、6月末、クボタは他社に先駆けて旧神崎工場の周辺住民3人に見舞金を支払うなど、この問題に積極的に取り組んできた。 昨年末までに見舞金と弔慰金を支払った数は46人に上る。
患者や家族を支援する市民団体「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の 永倉冬史事務局長は、「アスベスト問題で、企業にとって重要なのはリスクコミュニケーション。 その点、クボタの対応は評価してよい」と話す。
アスベスト新法は、アスベスト工場の周辺住民や従業員の家族など労 災の対象外である中皮腫患者などを主な救済対象にする。 中皮腫の認定患者向けの救済以外に、患者の遺族についても特別遺族弔慰金と特別葬 祭料を併せて300 万円が支払われることになった。
企業にとって重要なのは、政府が2007年度から救済財源として産業界に負担を求めている点だ。 2007 年度から4年間の産業界の負担は約270億円になりそうだ。
「アスベストの恩恵はすべての企業が享受した」との理由で、労災保険の 徴収システムを活用して全事業主から広く薄く集める。 政府関係者によると、一般企業の負担は、「1労災保険適用事業主等」当たり毎年平均 3000 円程度に落ち着きそうだ。
クボタなどアスベスト製品を製造した事業主などからは、負担額はま だ決まっていないものの特別拠出金の名目で追加的負担を求める。 いわゆる2階建て方式になる。
アスベストは、かつて「奇跡の鉱物」と言われ、耐火材や断熱材として企 業の現場で広く使われてきた。 しかし、その恩恵を今度は負債として返すことになったわけだ。
現在、大きな問題になっているのは吹き付けアスベストだが、労働安全 衛生法の「石綿障害予防規則(石綿則)」では「アスベスト等」の定義を「すべて のアスベストとアスベストを1%を超えて含有する製品」としている。
この範囲には、アスベストの吹き付けを原則禁止にした75 年以降、代 替材として使われた「吹き付けロックウール(岩綿)」と「吹き付けひる石」の一部も含まれる。
使用した年代によって、施工性を高めるためにアスベストを混ぜて使 用していた時期があるからだ。 吹き付けアスベストのリスクは、アスベストを含んだ代替材も念頭に考えなければならない。
4ページに掲載の年表のようにアスベストは72年には世界保健機関 (WHO)がその発がん性を指摘していたが、今後、アスベスト以外にも新しいリスクが顕在化する可能性がある。 企業経営を考える上で、このようなリスクにどのように向き合うかが問われるだろう。
三菱総合研究所の中條寛・主席研究員は、「企業のリスクマネジメントとしては、どこにどのような物質があるかを把握しておく必要がある。 (顕在化していないリスクについても)いつリスクが顕在化するかもしれないとの意識を常に持つことが重要になるだろう」と話す。
被害未然防止のために法整備

アスベスト新法と関連4法改正法の年度内施行が固まったことで、中皮腫患者、遺族などの救済やアスベスト対策が本格的に動き出す
アスベスト新法と同時に成立した大気汚染防止法など関連4法の改正法は、「今後のアスベスト被害を未然に防止するための対応」として必要になる法律の整備を一括したものだ。
大気汚染防止法の一部改正は、アスベストを使用している工場のプラントなどについて、解体などの作業時における飛散防止対策の実施を義務づける。 建築基準法の一部改正は、建築物での健康被害を防止するため、吹き付けアスベスト、アスベスト含有吹き付けロックウールなどの使用を規制する――などを主な内容にしている。
昨年8月、ゼネコンの飛島建設は、既存顧客向けの「アスベスト相談窓口」を設置した。 建築基準法改正などの動きをにらんで、昨年秋ごろから同社にはアスベスト含有吹き付け材の有無などに関する詳細調査の依頼が増え、昨年末までに50件ほどの回答を終えたという。
このように今年度中に施行されるアスベスト新法と関連4法の改正法は、アスベスト製品の製造企業だけでなくアスベストを使用した多くの企業にも、この問題に向き合うことを求めている。
次ページからは、「使用企業編」、後編の「製造企業編」の章で企業の経営者や担当者がいかにこの問題に対処すべきかを考える。
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