地域力が子供を救う

地域と一緒に立ち上がる行政

 この6月末、東京都品川区では区立小学校3校をモデル校に選び、『近隣セキュリティシステム』のテスト運用を開始した。

 システムの“核”はGPS(全地球測位システム)機能とPHS機能を搭載した専用端末で、愛称は『まもるっち』。緊急時に警報ピンを引くと、端末からブザー音が鳴り、それと同時に品川区センターシステムを通して保護者や学校、ボランティア登録している地元の協力者らに自動で通報が入る仕組みになっている。

 GPSの位置情報も発信されるので、協力者や区の生活安全サポート隊は通報を受け次第、現場に駆け付けることが可能だ。

『近隣セキュリティシステム』の流れ。(1)児童が危険を感じて緊急発信、(2)区役所内のセンターシステムでは発信した児童と発信地点を特定、(3)発信地点付近の協力者を抽出し、固定電話には音声で、携帯電話には地図情報付きメールを自動送信(通報内容は発信地点・児童の学年および性別)、(4)通報を受けた協力者は直ちに付近の状況や子どもの様子を確認

GPS機能とPHS機能を搭載している『まもるっち』。この9月1日からの本格運用に向けて改良が進められている



品川区区民生活事業部産業振興課 課長 金子正博氏。システム面を中心に『まもるっち』の開発・運用に携わっている。

 「6月に入って区内で連れ去り未遂事件が頻発し、警戒を強めていたのですが、テスト運用開始と同時にピタッと無くなり、十分な犯罪抑止効果が認められました。また、地域の皆様にご協力いただくことで、防犯における地域コミュニティを形成していきたい」──こう語るのは品川区区民生活事業部産業振興課の課長である金子正博氏だ。

 テスト運用はこの7月15日でいったん終了した。その結果を踏まえて、9月1日からは品川区立の全小学校を対象に、本格的な運用を開始する予定だ。

 端末は無料で子どもたちに配布し、卒業時に返却してもらう。初年度予算は2億3000万円。端末を持つ児童側は、端末の紛失や破損、オプションサービスの利用などがなければ、金銭的な負担は日々の充電にかかる電気代だけで済む。

 このシステムは元々「NPO法人ものづくり品川宿」が、通信端末を活用したセキュリティシステムを品川区区民生活事業部産業振興課へ提案したことが発端となり開発された。そのため、運営は品川区区民生活事業部産業振興課と同地域活動課、品川区教育委員会が連携して行っているのが特徴だ。

 産業振興課が端末の機能向上などの性能面を、地域活動課が協力者との連携強化といった人員面を支えている。また、「子どもが端末を誤作動させるケースもあるし、いざとなると動転して使いこなせない可能性もある」(金子氏)ため、教育委員会が主体となり、実際に端末を扱う子どもたちへの指導を行っている。

 金子氏によると、地域活性化が当初の目的であったというが、「子どもの防犯」という目的意識の共有は、産業振興課を経由したことで、より多くの組合や団体の賛同を集め、地域の連帯をさらに深めるきっかけになったと言えるだろう。

 現在、品川区には多数の自治体から問い合わせが入っているという。同種の取り組みが他の自治体に拡大していく可能性は非常に高い。

企業も子どもの防犯対策に一役

 子どもの安全を守るために立ち上がったのは自治体だけでない。品川区のテスト運営に先駆けて、NTTデータは、本年4月から7月末日まで神奈川県横浜市青葉区で『アイ・セイフティ・サービス』の実験導入を開始している。

 こちらはICタグを内蔵した、お守りくらいの大きさの端末がシステムの“要”となっている。

 NTTデータ広報室の龍詠美子氏によると、実験には児童や保護者のほか、東急セキュリティイッツコミュニケーションズなど多数の企業が協力しているという。

 2005年6月3日時点でタグの保持者は187人、『駆けつけ支援者』は231人。緊急時に子どもが端末のボタンを押して緊急通報を発信すると、各所に設置された『見守りスポット』と呼ばれるアンテナがその信号をキャッチし、センターに情報を送信する。そこから、近隣支援者に呼び出し通知が自動的に届くと共に、民間の警備会社へも出動依頼が発信され、それぞれが現場に駆け付けるというシステムだ。

『アイ・セイフティ・サービス』の流れ。(1)利用者は危険の遭遇した場合に「見守りタグ」の押しボタンを押して通報、(2)通報は「見守りスポット」と呼ばれるアンテナで検知し、情報センターを介して保護者、直近支援者、警備会社に通知され、通知を受けた支援者や警備員が現場に急行、(3)駆けつけた支援者や警備員は、必要に応じ警察に通報し、警官が現場に急行する

『アイ・セイフティ・サービス』の核となるICタグ内蔵の端末

 NTTデータは子どもの安全に関して企業として危機意識を持ち、このような開発・実験を行っているという。

 「子どもの安全を守るためには、地域ぐるみでの取り組みが必要です。アイ・セイフティ・サービスを通して地域の連携を目指したい」と同社広報室の龍氏は語った。





防犯対策は子どもたちへの指導がカギ

 約15年前から子どもの危険回避能力向上のための研究を続けている子どもの危険回避研究所所長の横矢氏は、子どもたちへの指導の重要性についてこう語る。

 「『車に気をつけなさい』と言うと、車にばかり集中して、不審者に気づかなかったり、側溝に転落したり、別の危険にさらされることがあります。『後ろから来る車に気をつけよう』などの注意ポイントを押さえる一方で、そのほかのことも総合的に判断できるようになる指導をする必要があります」。

 横矢氏によると、小学校や自治体などで講演を行う際、道路や公園などのイラストを掲載したオリジナルのパンフレットを配布し、その絵を見ながら「道路では何に気をつけたらいいかな?」「悪い人が隠れそうな場所はどこだろう」などと語り掛け、発言を促すという。大人が一方的に教えるのではなく、子どもに考えさせ、意見を出させることで、危険回避能力を高めていくのだ。

 また、警視庁考案の標語『イカのおすし』については、手作り絵本を使って紹介している。『イカのおすし』とは、知らない人について『イカ』ない、悪い誘いや見知らぬ車に『の』らない、危険な状況に陥ったら『お』おごえ(大声)を出す、怖いと思ったら『す』ぐに逃げる、先生や親にどんなことがあったのか『し』らせるというもの。2005年5月にはCDも発売され、話題を集めたので記憶にある人も多いだろう。

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