特集:
建築界信頼回復への道筋(前編)
構造計算書偽造事件を受けた制度改革の議論始まる

 昨年11月17日に発覚した構造計算書偽造事件。姉歯秀次元建築士が犯した前代未聞の愚行は、偽造を見過ごした建築界を窮地に追い込んだ。事件を「特異なケース」と考える建築の専門家は多いが、失ついした社会的信用を取り戻すためには、建築界全体の問題として危急の対策に取り組む必要に迫られている。国土交通省は社会資本整備審議会に基本制度部会を設置し、建築確認制度や建築士資格制度などの見直しに着手した。専門家にも、自らアクションを起こして議論を重ね、信頼回復への道筋を見定めていくことが求められている。

文/青野 昌行、小原 隆、佐々木 大輔(日経アーキテクチュア)
2006年2月15日

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【事件で浮き彫りになった問題点】
偽造を見抜けない建築界のシステム

 “下請け”という弱い立場の構造設計者に、建物の安全性の根幹が任され、それが建築確認という不十分な審査体制でしかチェックされない。構造計算の過程はコンピューターでブラックボックス化され、その内容は関係者にもわからない。そんな危うい体制を続けてきた建築界のツケが、一気に回ってきた──。事件を振り返って、明らかになった問題点を整理してみる。

【問題点1】建築確認に対する一般社会の期待に沿っていない実態

 偽造を見逃した指定確認検査機関や特定行政庁に対する社会の目は厳しい。その背景にあるのが、建築確認に対する強い思い込みだ。建築確認とは、行政が安全性に対して与えた“お墨付き”だと考えている人が少なくない。

 しかし、構造計算書の偽造事件によって、このような一般の認識は、確認業務の実態とはかけ離れていたことが白日の下にさらされた。

 偽造が見つかったマンションの住民に事情を説明したイーホームズの真霜典郎・危機管理室長は次のように話す。

 「住民は、確認検査機関が建物の性能まで細かく鑑定するものだと考えている。実際は建築基準法の確認だけなのだと説明すると、皆、驚いていた」。

 確認検査機関などは一様に、「現状の体制では、偽造を見抜くのは無理だ。審査方法に過失はなかった」と主張する。

 愛知県建設部の山北康雄理事は、国土交通省が開いた緊急調査委員会で、「確認申請の内容が事実であることを前提に、それを確認するのが現在の制度だ。偽装を見抜くことを目的に審査しているわけではない」と発言している。

明らかになった偽造の手口
手口1 2つの構造計算書を合成
手口1 2つの構造計算書を合成
正しい応力計算をして「不適合」判定の出た構造計算書Aと、応力を不正に低減して「適合」判定の出た計算書Bの2種類を出力。Aの前半とBの後半を組み合わせて計算書を偽造
手口2 荷重を過小設定 手口3 Ds値やFes値を過小設定
手口2 荷重を過小設定
手口3 Ds値やFes値を過小設定
二次設計時にDs値やFes値を過小に設定して、計算後の判定でエラーが0になるようにする
手口4 出力データを書き換え
手口4 出力データを書き換え
出力データをファイルとして保存。それをテキストデータとしてワープロソフトなどで読み込んで、数値を直接書き換え
手口5 構造計算書と構造図の不整合
手口5 構造計算書と構造図の不整合
構造図とは異なったデータで構造計算。改ざんではなく単なるミスの可能性も
※国交省の資料を基に作成

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