防災の新常識(後編)
災害時のリーダーが心すべきは
迷わないことと、間違えないこと
中高年よ地域リーダーたれ

震災直後、村長として陣頭指揮を執る姿は全国に伝えられた(提供:時事通信社)
――山古志では集落ごとに強固なコミュニティーが築かれていて、それが迅速な避難につながったそうですね。
長島:
過疎の村では孤立したら生きていけないという事情もありますが、住民同士がお互いのことを良く知っています。家族構成はもちろんのこと、あの家には寝たきりの老人がいるとか、目の不自由な人がいるということまで把握している。地震が起きた時間は夕方6時くらいですが、その時間だとあの人は畑にいるはずだとか、さっき奥さんが子供を連れて車で出て行ったので、たぶん買い物に出かけているはずだ、なんてことまでわかる。ヘリコプターで全村避難した時、県庁に「全員無事に避難が完了しました」と報告したら、「実際に村内を確認していないのに何でそういえるんだ」と聞かれました。でも、各集落の長がすべての住民の動きを把握していますから、確認するまでもなかったのです。
――都会ではプライバシーを重視するあまり、お互いに無関心で隣人の顔すら知らないということも少なくありません。地域で防災を考えるうえでは厳しい環境ですね。
長島:
確かに難しいかもしれませんが、コミュニティーをそう広く捉えるのではなく、例えば一つのマンション単位で考えていけばどうでしょうか。マンションには管理組合もありますし、住民が集まる機会も多いわけですから、そこで1度防災について話し合う機会を持っていただけたらなと思います。その際にリーダーシップを発揮していただきたいのは、会社をリタイアされた60歳前後の方々です。社会経験も豊富で物事を解決するための知恵をたくさん持っていますし、年齢からくる社会的な信用もある。住民から少々おせっかいと思われても、地域防災のための個人情報の収集に力を発揮できるはずです。
いざ震災が発生した時には、行政の手が足らなくなって情報が伝わらなくなってしまうこともある。そうした時に、行政のアシスト役として情報を伝える役割を担うことも期待されます。被災者の心理としては、情報をインターネットやラジオで流しています、じゃ納得しないんですね。直接人の声を通して聞かないと安心できない。そのためにも行政から発信される情報の伝達役をしていただきたいのです。
震災前より人口を増やしたい
――個人的には震災の前と後で何が変わりましたか。
長島:
まず生活が180度変わりましたし、仕事に対する考え方も同じくらい変わりました。それまでもけっこう真面目に仕事をしているという自負はありましたけど、震災後は、仕事ってこんなに一途に打ち込めるものなんだなと、自分でも感心しています。以前は仕事中でもゴルフをしたいなと思ったりしましたが、今はまったくありませんからね(笑)。
――政治家としてはどうですか?
長島:
震災の翌日、災害対策本部を設けた山古志小学校のグラウンドに立って心に誓ったのは、「迷わない、間違えない」ということだったんです。極限状態に追い込まれて、この2つの言葉がすっと心の底から浮かんできた。それまで長い間政治家をやってきても、そんな大事なことを思いつきもしなかったんですから、まさに震災が政治家としての私も鍛えてくれたのだと思います。それに、私は他の政治家のように「命を懸ける」という言葉を安易に使いたくない。私には果たさなくてはいけない使命や約束がありますから、それを成し遂げるまでは絶対死ねません。
――復興後の山古志の将来ビジョンをどう描いていますか。

大学時代、居酒屋でアルバイトをしている時に知り合った妻の久子さんは、忙しい夫の公務を支える
長島:
この間、2人の息子と食事をしていたら、「山古志に帰りたい」と言うんです。また、他県の中山間地の住民からは「山古志がきちんと復興できるかどうかは、我々が将来生き残れるかを占う試金石だ」といったメッセージをいただいています。私はこの震災をきっかけに、地元の若者だけでなく、外からの移住者も含めて山古志に人を呼び戻したいと思っています。都会の定年退職者などのIターン先になれるよう、建築家の方々にローコスト住宅の提案をしてもらったり、農地の貸し出し制度なども検討しています。また、山古志ブランドの知名度をうまく利用して、新たな農作物の流通ルートを開拓することも考えています。震災で失ったものはたくさんありますが、新たな可能性ももたらしてくれました。山古志の冬は厳しいですが、その分、春を迎える喜びは格別です。春は必ずやってくるのです。
ながしま・ただよし
1951年生まれ、54歳。東洋大学卒業後、東京での会社員生活を10年送り山古志村にUターン。村議2期を経て、2000年村長に当選。2005年の市町村合併により長岡市復興管理監に就任。同年9月の衆院選挙で初当選し、国政を通じて災害対策に取り組む

上記の記事「地震大国ニッポン、ここまでやれば大丈夫 防災の新常識」は,『日経マスターズ』2006年2月号に掲載された特集です。
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