リポート:2006年、建築業界は「構造計算書偽造事件」からどう立ち直るか
構造計算の偽造は、限られた専門家しか見抜けない
しかも、構造設計の部分は構造の専門家が見ないとわからない。ところが、この分野の専門家を抱えている確認検査機関は少ない。だから、現実の確認検査では、構造計算書の中身までは見ている時間もない。計算プログラムの最後の判定を確認するだけだ。そこをうまく突いてきたのが姉歯秀次元建築士だったと見る向きもある。「業界のブラックボックスになっているところを確信的に狙ってきたにちがいない」と指摘する人もいる。
図面を見れば偽造は分かるという声もある。だが、そうは問屋がおろさない。また、鉄筋の量を比較すれば分かるという声もあるが、これも一概には比較できない。建物の様式や形状によって、鉄筋の量や配置はかなり変わる。壁や梁で支えるという工法もあるからだ。
“いかさま”に気づくのは限られた専門家だけだろう。今回の事件発覚のきっかけは、姉歯氏が構造計算をした北千住のマンションの施工を請け負った志多組が、構造に疑念を抱いたことだった。彼らは、付き合いのある構造設計事務所のアトラス設計(渡辺朋幸社長)に相談を持ちかける。志多組はローコストの施工では実績のある会社として知られる。渡辺社長も、日ごろからローコスト設計にも挑戦してきた人物だった。鉄筋量の限界も感覚的にわかっており、すぐに勘が働いたに違いない。姉歯氏の偽造を見抜いた。

耐震計算偽造・アトラス設計の渡辺社長
姉歯秀次一級建築士の構造計算書偽造を見抜き、検査機関の日本ERIとイーホームズに指摘したアトラス設計の渡辺朋幸社長(東京都渋谷区のホテル)
(写真提供:時事通信社。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)
耐震強度のチェックは簡単ではない。「建築士はみな、限界いっぱいまで工夫する。工夫とイカサマとは紙一重になっている。最低基準である建築基準法をぎりぎりクリアでき、経済設計につながるところでがんばっているわけだ。だから、どこからが悪くてどこからがいいのかはグレーゾーンになっている」と指摘する専門家もいた。
ただ、そうは言っても、こんなに大胆な偽造をすることは、普通はないというのが業界の大勢だ。今回は姉歯氏単独というよりは施工会社や事業者が絡んで組織的な動きをしたのではないかと見られ、捜査がなされている。ある意味では“特異な事件”。大部分の建築士は、居住者の生命を守ることに、きちんとモラルをもっているので、偽造事件の被害が野放図に拡大していくことはないだろう。
基本制度部会も発足、いよいよ建築法制の見直しへ
建築関連制度の見直しに関しては国土交通省も強化の方向に動いている。国交省の諮問機関である社会資本整備審議会の建築分科会に基本部会を設置、2005年12月19日に初会合を開いた。同部会では建築確認制度や建築士資格、補償制度、指定確認検査機関への監督強化、違反者への処分の厳格化などが審議される。2006年2月をめどに中間報告をまとめ、通常国会で建築基準法や建築士法などが改正される見通しだ。部会のメンバーは学識経験者や業界関係者に加え、弁護士や保険会社の社員もおり、これまでよりも安全で着実な制度に見直されることになるはずだ。
法律の改正案が国会を通るのは、おそらく夏ごろになるが、それまでの間もいたずらに恐れる必要はない。一番悪い事例だけを見ていると不安が高まるが、現行制度でもある程度の命綱はある。2000年4月の住宅品質確保促進法(品確法)の施行、6月の改正建築基準法の本格施行、10月の品確法性能表示制度など、品質を守る制度は近年、拡充されている。工務店・住宅メーカー・分譲住宅会社などの住宅供給者が、新築住宅の瑕疵保証を10年間にわたり行うことを義務づける枠組みもある。きちんとした工務店や住宅メーカー、分譲住宅会社などから購入した物件であれば、保障に関しても問題はない。
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