アメリカ牛肉輸入再開、本当に安全なのか

生後20ヶ月以下の若い牛も感染する

 答申案の結論に書かれていた「管理措置の遵守を前提に」という文言も重要である。これは冒頭で専門調査会が答申した「一定の条件が守られれば」という言葉にも通じる。

 輸出再開に当たり、日本はアメリカに対して日本向け輸出プログラムの条件を満たすことを求めている。その条件の一つはBSEの発症例がほとんどないといわれる20ヶ月齢以下と証明される牛に限定すること、もう一つはBSEの原因と考えられる「異常プリオンタンパク」が存在する「特定危険部位」をすべてあらゆる月齢の牛から取り除くこと、そして、日本向けの製品を他製品と識別管理することである。

 新聞などでも20ヶ月齢以下の牛は「BSEに感染しない」と書かれているが、これは正確ではない。

 専門調査会の委員であり、BSE研究の権威である山内一也東京大学名誉教授は(社)日本獣医学会のサイトで、「人獣共通感染症」という連続講座を掲載し、BSE問題についても様々な発言を行っている。その中の「BSE対策をめぐる最近の議論と変異型CJDキャリアーの問題」(第161回)で、山内氏はこう述べている。

 「英国での成績では24カ月齢以下での発症例は0.006%以下(約177,500頭中10頭)、30カ月齢以下では0.05%(81頭)である。そのうちもっとも若いBSE例は20ヶ月齢である。この例について、European Commissionの報告(3)では次のような議論を行っている。英国での感染実験では接種後32ヶ月目で脳に感染性が見いだされ、35ヶ月目に発症が見られている。そこで発症3ヶ月前にはBSE検査陽性になると仮定して、このウシの場合17ヶ月目にはBSE検査陽性になると推定される」

 すなわち、3ヶ月間で感染から発症に至る仮説が正しいとすれば、17ヶ月齢の牛が感染していたことになる。また、現在のBSE検査はすべての感染を検出できないことも知っておくべきだ。山内氏が上記の講座で「通常の微生物感染でも抗体が上昇するまで、または病原体が一定レベルに達するまでは、感染は検出できない」と述べているように、BSEも感染初期には検出不能である。

 従って、アメリカが「全頭検査は科学的ではない」というのもすべての感染牛を現状の検査では検出できないという意味においては正しい。

特定危険部位の除去は守られるのか

 だが、それで全頭検査が不要というわけではない。感染の実態を知る上では非常に有用であり、日本がそれを断行したおかげで、21ヶ月齢と23ヶ月齢の若い牛でもBSE感染を摘発できたのである。アメリカのように一部の高リスク牛だけを検査対象とすることで、全体像を把握できない(把握したくない?)ことの方が大きな問題だ。

 勘違いすべきでないのは全頭検査をすればすべての感染牛を水際で止められるわけではないということだ。当然ながら検査からもれる感染牛は出てくる。そこで、重要となるのが特定危険部位の除去である。

 特定部位とは下記の図版にもあるように異常プリオンタンパクが蓄積されている体内の臓器を指す。脳、脊髄などの集中的に集まっており、これらを除去することで、仮に感染していてもリスクを最大限に減らすことができる。月齢を限定することと、特定危険部位の除去という2重の予防があってこそ、食肉として安全が確保できるわけだ。

「BSE発症牛体内の感染力値の分布」:食品安全委員会事務局「米国・カナダ産牛肉等のリスク評価(案)のポイントについて」より

 現在、日本では全月齢の牛からすべての特定危険部位を除去しているが、アメリカとカナダでは扁桃と小腸のみ全月齢から取り除くだけで、脊髄や脳、眼球、せき柱などについては30ヶ月齢以上の牛に限っている。これを日本へ輸出する場合には、全月齢・全部位の除去を徹底するように日本はアメリカに要求しているわけだ。

 だが、アメリカにとってその負担は大きく、この条件をアメリカが守るのか、あるいは守っているかどうかをどの機関がどのような手段で監視するのか明確ではない。

 今年8月24日に開催され第29回食品安全委員会プリオン専門調査会では、一つのショッキングな資料が配布された。それは、米農務省が発表したデータで2004年1月から2005年5月にかけて、特定危険部位の除去手続き違反が1036件あったという内容だった。

 こうした状況が現在のアメリカでどれほど起こっているのか、誰も分からない。少なくとも監視のシステムを作るなり、一定の期間をおいて改善状況を確認するなり、何らかの手を打たずに、いきなり12月に輸入解禁というのでは将来に大きな禍根を残すことになるのではないか。

<参考サイト>
▼内閣府食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/

▼農林水産省:牛海綿状脳症(BSE)関係
http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/bse_j.htm

▼厚生労働省:「牛海綿状脳症(BSE)関係」
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/bse.html

▼日本獣医学会:人獣共通感染症(山内一也東京大学名誉教授)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/ProfYamauchi.html

▼動物衛生研究所:牛海綿状脳症 (BSE)
http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/bse/bse-s.html

▼NIKKEI NET いきいき健康:牛海綿状脳症 BSE特集
http://health.nikkei.co.jp/bse/


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