【今週のハイライト】
アメリカ牛肉輸入再開、本当に安全なのか
ナビゲーター/吉村 克巳(ジャーナリスト)
2005年11月18日
12月解禁はブッシュ大統領への手土産?
11月16日、来日したアメリカのブッシュ大統領との会談で、小泉純一郎首相はアメリカ産牛肉の輸入再開について、12月中に解禁される見通しを明らかにした。大統領は共同記者会見で「専門調査会はアメリカ産牛肉が安全で安心であると判定してくれた」と述べたが、実態はそれほど単純ではない。

BSE・食品安全委プリオン調査会の吉川座長会見
食品安全委員会のプリオン専門調査会の会合を終え記者の質問に答える吉川泰弘座長(右端、東京大学大学院教授)(東京・永田町)
(写真提供:時事通信。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)
内閣府の食品安全委員会は10月31日にプリオン専門調査会(座長・吉川泰弘東大教授)を開き、BSE(牛海綿状脳症)の発生によって輸入を禁止していたアメリカとカナダ産の牛肉について、「一定の条件が守られれば日本産牛と比べてリスクの差は非常に小さい」という見解を発表した。
これを受けて、政府は輸入再開の動きを加速させ、12月解禁の手続きを進めて、ブッシュ大統領来日の“手土産”とした、というわけだ。
輸入再開の報に日本フードサービス協会や吉野屋ディー・アンド・シーなどは歓迎の意を表したが、「日本産牛と比べてリスクの差は非常に小さい」という部分だけが一人歩きしている感がある。というのも、プリオン専門調査会の答申案を読むと、決して「安全」のお墨付きなど出していないからだ。
その答申案である「『米国・カナダの輸出プログラムにより管理された牛肉・内臓を摂取する場合と、我が国の牛に由来する牛肉・内臓を摂取する場合のリスクの同等性』に係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)」は「参考サイト」として文末に掲載した食品安全委員会から入手できるので、ぜひご一読願いたいが、そこにはこのように書かれてある。
「米国、カナダのBSE検査は、限られた牛を対象としたデータであり、また検査技術等の問題があったため、BSE検査陽性牛が見逃された可能性がある。サーベイランスにより得られたデータは数が少ないので十分な評価は困難であるが、仮にこのデータを外挿した場合、絶対数で比較すると、米国は日本の5~6 倍、カナダは4~5倍程度高いと考えられる」
と同時に答申案ではアメリカの飼育規模が日本の約20倍、と畜(食用を目的に獣畜を殺すこと)規模が約30倍、カナダの飼育・と畜規模が日本の約3倍であることを考慮すると、「BSE汚染の割合で比較すると、100万頭あたりのBSE汚染頭数は、カナダが日本と同等、米国はやや少ないという可能性が考えられる」としている。

「生体牛のリスクの総括」:食品安全委員会事務局「米国・カナダ産牛肉等のリスク評価(案)のポイントについて」より
つまり、BSE汚染の“割合”が同等以下の“可能性”があるといっているに過ぎず、絶対的な汚染牛の“数量”はアメリカが日本の5~6倍程度高いと想定されているのだ。それが「リスクの差は非常に小さい」といったある種の言い換えによって意図的なごまかしが行われているように思える。
アメリカのずさんな検査体制

米国産牛肉の輸入反対を訴える生産者ら
農林水産省前で米国産牛肉の輸入再開への反対を訴える生産者・消費者団体(東京・霞が関)
(写真提供:時事通信。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)
しかも答申案の結論においてはこうも書かれている。
「米国・カナダに関するデータの質・量ともに不明な点が多いこと、管理措置の遵守を前提に評価せざるを得なかったことから、米国・カナダのBSEリスクの科学的同等性を評価することは困難と言わざるを得ない」
日本ではと畜されるすべての牛について、2種類以上の方法で1次検査と2次検査を行い、BSE検出の精度を高めている(いわゆる全頭検査)が、アメリカでは過去、24ヶ月齢以上で、歩行困難な牛(ダウナー牛)など高リスクの牛だけをターゲットに1種類の方法で検査をしてきたに過ぎない。
2003年12月にカナダからの輸入牛でBSE感染第1例が発見されてからは、検査対象を拡大したが、高リスク牛が対象であることには変わりなかった。 2004年6月からはようやく1次・2次検査を併用するようになり、2005年6月には2例目のBSE牛が摘発された。この牛はテキサス州内の牧場で生まれたアメリカ国産牛だった。
この感染牛は当初の検査では見落とされ、検査機関からの確認要請によって専門機関と英国獣医学研究所で再検査した結果、陽性との結論を得た。ジョハンズ米農務長官は見落としを認め、検査体制の見直しをすると述べたようだが、あまりに遅すぎる措置といわざるを得ない。
答申案でも2004年6月以前に「BSE例は見逃されていた危険性も考えられる」とし、新たに導入される検査方法の詳細について「今まで当調査会には公式に提示されていない」と書かれている。
こうしたアメリカのずさんな検査方法と情報開示の不十分さが大きな問題であり、プリオン専門調査会はその中で困難な評価作業を強いられたわけだ。ブッシュ大統領が「専門調査会はアメリカ産牛肉が安全で安心であると判定してくれた」などと語った脳天気な状況では全くないということがお分かりだろう。
アメリカの圧力に屈したのか、別の利害があるのか分からないが、日本政府はかつて厚生省が犯した「薬害エイズ」問題への反省もなく、再び過ちを繰り返そうとしている。
この連載のバックナンバー
- 廃墟と化した山間部の集落 (2008/06/26)
- 壊滅的打撃を受けた工業地域 (2008/06/19)
- 世界遺産の街に大きなダメージ (2008/06/16)
- 崩落した中学校はレンガ柱だった (2008/06/12)
- 十和田湖の白鳥、ウイルスは強毒型のH5N1型 (2008/04/30)

