進化するバイオメトリクス――(5)顔認証

生体認証はマルチモーダル化しながら進展する

 今やウォークスルーも可能になった顔認証。セキュリティ性と利便性のほかに「不正を働こうとする人にとっては、顔の情報が残るので抑止力になることも大きなポイント」(東芝・静野氏)といった長所もある。だが、弱点がないわけではない。例えば双子などの厳密な識別は困難だし、黒いサングラスで目を隠していたり、帽子を被っていたりすると、高精度での照合は難しくなる。

 そこで提案されているのが「組み合わせ」。一つはカードシステムとの組み合わせで、サーバールームや金庫室のように高い機密性を要求されるエリアに対しては、顔認証システムとカードシステムを組み合わせた厳密なセキュリティシステムを構築する。一方、ハイセキュリティを必要としない入り口部分では、警備員が立って監視しているのと同じようなイメージで顔認証装置を設置する、といった利用法だ。こうしたカードシステムとの組み合わせは米国などでは一般的で、顔のほか指も用いられる。ただ指紋だと誰が通ったかすぐには分からない。その点、顔ならば人間の目で見て分かる。そうした目視もできるところが顔認証のよさだ。

 もう一つの組み合わせは、指紋や静脈など複数の生体情報を用いて本人認証を行う「マルチモーダル生体認証」である。生体認証に用いられる生体情報は、これまでみてきた指紋、静脈、虹彩、顔のほかにも音声、掌形(手の形や大きさ)、筆跡(文字の書き方、筆圧など)、打鍵(キーの入力速度、キーとキーの打鍵間隔など)、耳介(耳の形状=軟骨の隆起・陥没・張り出し、輪郭等)、DNAなど少なくない。

 このうち音声を用いた照合は特殊なセンサーなどを必要とせず、ありふれたマイクが使え、顔照合と同じように抵抗感がないといった点で手軽な個人認証に適している。DNAは終生不変で識別精度が高く、照合アルゴリズムが不要というメリットもある。つまりDNAはA(アミン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種類の塩基配列のどこを見るかを定義するだけで識別ができる。ただしDNA認証は個人IDを生成するための時間とコストがかかる。またDNAはプライバシー情報なのでその保護への配慮が不可欠。さらにDNAは毛根付き毛髪などを入手すれば容易に他人の情報を盗むことができるといった難点もある。従って実際のDNA個人IDは、生のID情報に個人が管理する秘密乱数を加えて操作した情報を使用する。

 マルチモーダル生体認証は、そうした一人の人間の持つ複数の異なる生体情報を独立に取得、照合し、得られた複数の照合結果を融合して総合的に判定するので、単体の生体認証に比べて認証率は高くなる。またマルチモーダル認証は、一つの生体情報が使えない人でも他の生体情報(例えば指紋が使えなくとも虹彩)を使って認証ができる。さらに複数のモダリティ(生体情報)を同時に偽造することは困難なので、偽造対策としても有効と見られている。従って今後、マルチモーダル化が進展していくことは間違いない。

 NECが行ったアンケート調査によると、どの生体情報を評価するかは人によりまちまちで、数百人からアンケートを取れば、それぞれの生体情報についてマイナスイメージを持つコメントが一定の割合で存在する。比較的マイナスイメージが少ないのが静脈だが、それでもゼロというわけではない。「従って目的によって何を採用するかは変わってくる」とNECは指摘する。

 生体認証は今後、そうしたTPOを見極め、認証精度の向上、コストパフォーマンス、有効性などを考慮しながら導入が加速することになろう。そのために必要な技術革新は着実に進展している。

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