進化するバイオメトリクス――(4)虹彩認証

モバイル向けミドルウェアやマウス搭載も

 アイリス認証は空港やビル、機密性の高いエリアなどでのハイセキュリティシステムでの採用が進む一方、モバイル機器やマウスへの搭載による新たな市場獲得へも踏み出している。

 モバイル機器向けでは、OKIが開発した「モバイル向けアイリス認証ミドルウェアVer.1.0」がその一つ(図7)。携帯電話にカメラが標準的に搭載されるようになり、おサイフケータイが登場し、さらに情報漏洩問題も社会的にクローズアップされてきたことが開発の背景にある。従来のアイリス認証はハイセキュリティを目指しているのでプログラムサイズも大きく、カメラなどの装置も大型化していた。そこでモバイル機器向けの全く新しいアルゴリズムを開発した。このミドルウェアは携帯電話のカメラと搭載されているメモリー、CPUを使ってアイリス認証ができる。

図7:モバイル向けアイリス認証のイメージ

 「ただしトレードオフがあり、ハイセキュリティ向けのアイリス認証の他人受入率が120万分の1であるのに対して、モバイル向けはカメラにもよるが10万分の1程度になる。カメラがよくなればもっとよくなる。高解像度のカメラになるほど離れた距離から撮影できる。モバイル環境で考えた場合、アイリス認証は顔認証や指紋に対して1~2桁上の数字を出せると考えている」(OKI 情報通信グループインキュベーション本部プロジェクトマネージャーの小林司氏)

 このミドルウェアは、もともと搭載されているカメラを使うので指紋のような専用センサーを追加する必要がない。ただし、別途照明が必要になるが、価格的には大きな負荷にはならない。プログラムは200Kバイト程度のコンパクトなものなので、携帯電話だけでなく、PDAやノートPCにも簡単に搭載できる。このミドルウェアは携帯電話キャリアやモバイル機器や組み込み機器のメーカー向けで、一般ユーザーがダウンロードやインストールはできない仕組みだ。セキュリティ上からも、当初から組み込んだほうがよいと同社では考えている。2007年7月からSDK販売を開始した。

 こうしたモバイル向けアイリス認証のニーズとしてまず高いのは業務用途。携帯電話を使って社外から業務情報やデータベースにアクセスする、あるいは紛失して万が一悪用されるようなことになると信用問題になるので、登録した社員しか使えないようにする、といったアプリケーションがある。いまや携帯電話をはじめとするモバイル機器は重要な情報源なので、今後、こうした対策は不可欠になってこよう。さらに利便性としてのニーズも高い。例えばキーボードがないような共有端末で名前やパスワードが不要なログインを可能にするというわけだ。

 一般用途では、おサイフケータイなどで支払いをする場合、現状の本人確認手段はパスワードやカード番号だが、それをアイリス認証で行うといったニーズがある。「市場としては大きいと期待しているが、おサイフケータイは利用金額の上限が設けられていることなどもあり、顧客は現状、まだ高額の決済をしていない。しかし、いずれは立ち上がる市場で、OKIとしてはその時期は2009年頃と見ている」(小林氏)。モバイル向けアイリス認証ミドルウェアの今後のロードマップは、2008年には操作性や精度をさらに向上させたバージョン2をリリースし、その後はニーズに応じてチップ化することで、より多くの利用者を獲得したい考えだ。

 “世界初”を謳ったアイリス認証マウスも登場した。クリテックジャパン(東京都港区、對馬一彦社長)が今秋から本格販売を始めた「IRIBIO(イリバイオ)マウス」である(図8)。マウスの側面にイメージセンサーモジュールを搭載しており、利用者はこれで自分のアイリスを取り込んで使う。照明変動の影響をほとんど受けず、50Lux~10,000Luxの照明環境まで認識可能。またマウスには独自特許技術の「Block Pattern分析方式」によるアイリス認証アルゴリズムを搭載しており、認証速度は0.1~2秒と高速だ。価格は3万7,800円。同製品のほか、アイリス認証開発キットなども提供する。同製品およびクリテックのアイリス認証技術について同社の對馬一彦社長は次のように語っている。

図8:虹彩認証ができる世界初の「IRIBIOマウス」

 「クリテックは従来のアイリス認証技術の問題点を画期的なアルゴリズムで克服した。(生体認証の専門調査会社である)IBG社から『世界一精度が高く、世界一認証時間が短い。これまでに評価した80種類のバイオメトリクスの中で最高の商品』と絶賛された。現在、米国政府での評価中で2008年初には公式レポートが発表される見込み。IRIBIOマウスは利用者のシステム環境の違いにより性能がフルに使えないため、ある程度機能を絞り込んだ。その結果、システム環境による影響を受けなくなった。2007年10月から販売攻勢をかけている」

 高い認証精度を持つアイリスだが、弱点がないわけではない。例えばカラーコンタクトレンズには模様が入っているので、アイリスとの峻別が現状では技術的に実現できていない。あるいは、ハイセキュリティ分野で使用される装置の小型化も課題の一つだ。というのは、全自動撮影型で離れた距離からアイリスパターンを取得するシステムだと、大きなカメラが必要で小型化が難しいという面があるからだ。明るい太陽の下での認証もアイリス認証は不得手である。そうした需要がどれだけあるかは別にして、市場が少しでも求めればそれに応じていく必要がある。

 しかしながら、利便性と精度の高さはやはりアイリス認証の強みであり、今後への期待は大きい。中核となる市場は、既に紹介してきたようなボーダーコントロール市場だが、それ以外にもある。例えば街中にあるキオスク端末で本人を特定するといった用途である。そこでアイリス認証が提供されれば、利用者はカードなどを持たずに本人認証ができる。アイリス認証の出番は、思った以上に増えそうだ。次回は顔認証を中心に、生体認証の技術と市場を探る。

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