製品ウオッチャー 進化するバイオメトリクス――(4)虹彩認証

「目を抜く」といえば人目をごまかすことだが、生体認証で最もごまかしのきかない、つまり誤認識率に優れるのが「目」である。目を使った認証には虹彩(iris)認証のほかに網膜(retina)認証もあるが、これは目の奥にある血管パターンを使うため採取方法や装置に問題が多く、現在はほとんど使われていない。従って目を使った生体認証と言えば通常「虹彩認証」を指す。虹彩は黒目から瞳孔を除いたドーナツ状の部分。この虹彩のパターンを個人認証に使うアイデアが提案されたのは1936年というから、虹彩認証は70年の歴史を持つとも言える。これまでは主として機密性の高いエリアへの入退室管理や空港セキュリティなどに採用されてきたが、最近は携帯電話やマウスにも搭載され、新たな市場を形成しつつある。

文/日高 俊明
2007年12月12日

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利便性と認識精度に優れる「アイリス認証」

 「虹彩」(アイリス)を網膜と混同するケースもあるようなので、まず両者について整理しておきたい。アイリスは、眼球の角膜と水晶体の間にある円盤状の薄膜、いわゆる黒目の部分である。中央に瞳孔があるので、この部分を除いたドーナツ状の薄膜がアイリスということになる。これに対して網膜は「眼球壁の最内層」、つまり目の奥の部分で、多数の視細胞が並び視神経線維(血管)が分布している(図1)

図1:虹彩(アイリス)と網膜の位置関係

 アイリスも網膜も眼球内にある保護された内部器官であり、基本的に一生不変で、個人ごとにユニーク性を持つという点では生体認証に最適の条件を備えている。ただし、アイリスが眼球の表面近くにあるためその紋様(アイリスパターン)を外部の離れた位置からカメラで簡単に撮影できるのに対して、網膜は眼球の奥深くにあるため、紋様の採取には顕微鏡のような装置を覗かねばならない。従って手間がかかるし、不特定多数が利用する場合には不潔感が伴い衛生面で問題がある。また装置が小型化できない、飲酒や運動後は認証精度が落ちるといった難点もあり、網膜認証はほとんど使われていないのが現状だ。

 アイリスは、外部のカメラから簡単にアイリスパターンを採取できることの他にもいくつかの特徴がある。まず、アイリスは妊娠7、8ヵ月頃に創られ、生後2年ほどで安定し、その後は一生変わらない。次にアイリスパターンは高い複雑性とランダム性を持つ(図2)。さらに一卵性双生児や同一人物の両眼のように、同じ遺伝子を持っている場合でもアイリスパターンは異なる。このように、アイリスは認証に最適の条件を備えているのだ。1998年10月、アイリス認証を用いた世界初のゲート管理システムを発売した沖電気工業(以下、OKI)は、アイリス認証の長所について次のように指摘する。

図2:アイリスパターンとその例

 「アイリスは模様が複雑なので認証精度は最高レベル。仕様を比較すると、アイリスと同レベルのものはあるがそれ以上のものは確認されていない(表)。また、目という特殊な内部器官なので、指紋の偽造指のようなわけにはいかない。つまり偽造に強い。さらに非接触で離れた位置から撮影ができる。意外に知られていないのが照合の検索スピードの速さ。1対N認証で20万人のデータベースを照合する場合でも、普通のパソコンを使って2、3秒で済んでしまう。より高速なサーバーを使えば1秒以下でも可能で、これは他の技術では出来ないと言われている。アイリス認証はそうしたことも含めた利便性が高い」(OKIシステム機器カンパニー営業本部プロダクト営業部マネージャーの湯浅秀一氏)

表 :生体認証の技術比較

ランダム性
複雑性
不変性
(経年変化)
不変性
(環境変化)
採取性
(採取方法)
採取性
(抵抗感)
サイン
指紋
静脈
顔貌
声紋
掌形
網膜
虹彩

 二つの異なるアイリスが同一コードになる確率は10の78乗分の1(1/1078)という桁外れの低さ。全世界の人口が10の10乗(100億)以下、指紋が同一コードになる確率が10の12乗分の1(1/1012)ということかしても、アイリスの認証精度の高さが分かる。アイリス認証の他人受け入れ率(=誤認識率:Cross-over Error Rate)は120万分の1以下である。

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