主流は「手のひら静脈」と「指静脈」
なぜ静脈か。まず静脈は血管という人間の体内にある組織なので、簡単に他人に知られることがない。従って指紋認証における偽造指のようなリスクが極めて少ない。次になぜ動脈ではなく静脈かだが、これには二つの理由がある。一つは静脈のほうが動脈よりも皮膚側に近いので読み取りやすい。そしてもう一つは「還元ヘモグロビン」という、静脈を流れるヘモグロビンの性質による。それはこういうことだ。
人間の血中には酸素の運搬に重要な働きをするヘモグロビン(赤血球中に含まれる蛋白質。鉄を含む色素=ヘムと、蛋白質=グロビンの化合物)がある。これは「酸化ヘモグロビン」として動脈を通って酸素を身体の隅々まで運ぶ。運び終わると「還元ヘモグロビン」となって静脈を通って肺に戻るが、実はこの「還元ヘモグロビン」には近赤外線を吸収する性質がある。
そこで特定の波長(760ナノメートル前後)の近赤外線を照射すると、還元ヘモグロビンが吸収して網の目のように張り巡らされた静脈パターンを暗く映し出す(図1)。静脈パターンは人によってそれぞれ異なり、加齢による変化などもないため、あらかじめ登録してある静脈パターンと照合することによって誤認率の極めて少ない本人確認ができるというわけだ。
静脈パターンを採取する身体の部位については、手のひら、手の甲、指などがあるが、主流は「手のひら」と「指」である。富士通が開発した手のひら静脈認証の場合、非接触型であるため、装置に手をかざすという誰にでもできる簡単な動作で個人認証が出来るのが大きな特徴だ。装置に触れることなく認証ができるので、抵抗感が少なく衛生的である点も評価されている。
手のひら静脈認証に使われるセンサーの技術開発は進んでいる。三菱東京UFJ銀行に使われているセンサーは従来の7cm角のセンサーだが、最新型は幅35㎜×奥行35㎜×高さ27㎜に小型化している(図2)。サイコロのような四角いセンサーなので装置への埋め込みがしやすく、しかも装置表面を平面に出来るメリットがある。従って壁やテーブルに埋め込むといった利用に適している。
静脈認証を二分するもう一方の技術である「指静脈認証」は日立製作所が開発した。指の上から近赤外線を照射して透過させ、その結果得られた静脈パターンを指の下にあるCCDカメラで読み取る方式である(図3)。日立では「指画像から静脈の存在する部分を人工知能手法で鮮明な構造パターンとして検出し、あらかじめ登録した静脈の構造パターンとマッチングさせて個人認識を行う」としている(図4)。
日立は1997年から指静脈認証装置の研究に取り組み、「他社を凌駕する特許ポートフォリオを構築」しているとする。その一つが、指の両側(側面)に光源を設け、光源からの照射タイミングをずらして複数回撮像を行って複数の透過光画像を得、撮像された複数の透過光画像を合成する技術(平成19年度・文部科学大臣発明賞受賞)。この方式だと、従来の指の上から照射する方式に必要なフード部分が不要で、上部を開放した形状の認証装置が可能になる。
手のひら静脈認証、指静脈認証とも、他人受入率(誤って他人を認証してしまう確率)は0.0001%、つまり100万回に1回という極めて誤認率の小さい技術だが、手の甲認証でも同レベルの装置が開発されている。その一つがテクスフィア社(Techsphere Co.Ltd、韓国)の手の甲静脈認証装置。開発者のAlex Hwansoo Choi氏は韓国バイオメトリクス協会の副会長も務める。同社の日本総代理店のSYNCHRO社によると、入退室管理分野を中心に国内に800社以上の顧客を持つ。
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