“疲れ知らず”が死を招く
「疲労感なき疲労」こそが過労死の最大の原因

仕事が充実していて、疲れなんてまったく感じない。しかし、実は自分でも気が付いていないだけなのかもしれません。疲れを自覚できないと、命を落とすことにもなりかねないのです。

文/中野優、イラスト/松本孝志
2005年11月4日

疲労感は“休め”のサイン

 朝、目を覚ました時、身体が重く、ベッドからなかなか起き上がれないということはありませんか? もしそう感じることが多いなら、相当疲れが溜まっている兆候です。

 最近、過労死が話題になることが増えています。過重な労働が脳卒中(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など)や心筋梗塞を引き起こし、人を死に至らしめる危険性があることが分かり、国を挙げてその対策に取り組んでいます。

 不名誉なことに、過労死のローマ字読みである「Karoshi」は、国際的にも通用する言葉となっています。ちなみに日本は、国民の約60%が疲労状態にある世界一の疲労大国と言われ、「Karoshi」は、あたかもそれを象徴しているかのようです。

 さて、過労は過重労働の略と言えますが、医学的には「過度の疲労」を意味します。要するに、過重な労働で疲労が過度に蓄積した結果、脳や心臓が侵され、ついには死に至るわけです。

 なぜ過度の疲労状態にあるにもかかわらず、働き続けてしまうのでしょうか。実は過労死する人の多くは、「疲労」していても「疲労感」を自覚できないらしいのです。

 疲労感は、意欲や達成感に大きく影響されます。例えば、いつも意欲的に仕事をこなしている人や、達成感のある仕事に携っている人は、疲労が引き起こす疲労感に気付きにくく、ついつい疲労も蓄積されがちです。このいわば「疲労感なき疲労」こそが、過労死の最大の原因ではないかと考えられています。

疲労感は無視してはダメ
休息要求の重要なシグナル

 では、疲労と疲労感はどう違い、どのような関係にあるのでしょうか。

 まず疲労とは、専門的には「肉体労働や頭脳労働などを継続して行った時に見られる一時的な身体的・精神的パフォーマンス(作業能力)の低下現象」と定義されています。例えば、仕事を長時間休まず続けると、次第に能率が下がり、ミスも発生しやすくなりますが、そうした現象を「疲労」と呼ぶわけです。

 疲労は休息を取ることで解消します。問題なのは、疲労状態そのものに、人は意外と気が付かないということです。つまり、ミスが多くなっても、それだけでは「疲れた」と感じにくいものなのです。

 そこで重要なのが、脳の役割です。疲れてくると、脳は自らの活動水準を下げ、眠気やだるさ、集中力の低下、身体各部の違和感(頭痛や肩こりなど)といった、いわゆる「疲労感」を演出し、休息を督促します。

 こうした脳が発信する疲労感を素直に受け入れ、小休止や休息、睡眠、数日間の休養という疲労回復の方法を適宜取ることが、過労による心身の不調や死を回避するための最も大切なポイントなのです。疲労感は無視してはいけない「休息要求の重要なシグナルである」ということをぜひ認識しておいてください。

脳を癒す快眠法

● 体温(深部体温=脳温)を下げて眠気を誘発

  • 夜、軽い運動をする (上昇した体温が2時間後に急降下して眠気が倍増)
  • 温かめ(39~40度)のお風呂に入る (皮膚の血流増加→放熱で体温降下)
  • 頭部を冷やす(脳温低下)

●メラトニン(睡眠物質)を増やして熟睡を確保

  • 昼間、できるだけ日光を浴びる(夜間のメラトニン分泌を促進)
  • ホットミルクを飲む(牛乳内のトリプトファンがメラトニンに変化)
  • 寝室を暗くする(明るさはメラトニンの生成を抑制する)

コーヒー、タバコが過労の手助けをしてしまう

 仕事で疲れると、人はよくコーヒーを飲んだり、タバコを吸ったりします。コーヒーには脳を興奮させるカフェインが含まれています。カフェインは、眠気を誘発するアデノシンという物質の働きを邪魔して眠気を蹴散らすほか、覚醒効果のあるドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の分泌を促して、興奮をもたらします。こうしたカフェインの作用は、取りも直さず疲労感の減少を招きます。

 また、タバコに含まれるニコチンはカフェイン同様、ドーパミンやノルアドレナリンの分泌を促し、覚醒レベルを上げて集中力を高めます。その結果、やはり疲労感を取り除いてしまいます。

 疲労感は休息要求のシグナルですから、消し去るのではなく、受け入れるべきものです。であるなら、疲れた時のコーヒーガブガブ、タバコスパスパは、疲労回復どころか、過労を増長することにもなりかねません。気分転換程度に抑え、くれぐれも飲み過ぎ、吸い過ぎには注意しましょう。

 急性の疲れには小休止や短時間の休息が、慢性的な疲れには休暇など十分な休養が必要ですが、その日の疲れを取るために有効な方法は、何といっても睡眠が一番です。

 一日の仕事が終わる頃には、脳や身体は随分と疲れています。睡眠はそうした疲れを癒してくれます。特に、脳の疲れは睡眠なしでは取り除けません。脳を癒す快眠法と疲労回復の秘訣を左の表にまとめましたので、今日からでも、ぜひ実践してみてください。

 過労死という最悪の事態を招かないためには、日頃からの健康管理が大切であることは言うまでもありません。自分が疲労状態にあるのかどうかをしっかり感じ取り、疲れているなと思ったら、早めの対処を心掛けましょう。

疲労回復の秘訣

肉体疲労

●疲労を招く「エネルギー源の枯渇」を防ぐ

  • 朝食をしっかり摂り、3食を欠かさない
  • ブドウ糖の代謝に必要なビタミンB1が豊富な食品(豚肉・大豆製品・貝類・ナッツ類)を意識して摂る

●血液循環を改善し、疲労物質である乳酸の排泄を促進

  • 1日30分のウオーキングを励行
  • マッサージをする

精神疲労

●良い香りを嗅ぐ(アロマテラピー)
●好きな音楽を聴く(音楽療法)
●落語や漫才を聞く(笑いの効用)

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